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1968年12月10日 午前9時25分
東京府中市内で現金輸送車ごと強奪される
image日本犯罪史上最大のミステリーと言われる「府中三億円強奪事件」が起こったのは1968年12月10日午前9時25分頃。その日は朝から雨だった。日本信託銀行国分寺支店から東芝府中工場へと向かう現金約3億円を積み込んだ現金輸送車が府中刑務所裏の通りにさしかかると、交通警官に変装した犯人が白バイで接近してきた。停車を指示した犯人は「あなたたちの銀行の支店長宅が爆破された。この輸送車にも爆弾が仕掛けてあると連絡があったから調べさせてくれ」と言って、行員4名を車から降ろさせた。image実は数日前に支店長宛の脅迫状が送りつけられていたため、行員たちは簡単にその言葉を信じてしまったのだ。犯人は輸送車の下にもぐり、ダイナマイトをかざすようにして発煙筒をたき、「あぶないから下がって」と命じた。行員たちが車から離れると、犯人は堂々と運転席に乗り込み、3億円を乗せた輸送者を運転、そのまま小金井方向へと走り去った。だまされたと気づいた行員はまもなく警察に連絡。すぐに緊急配備が敷かれ、1時間後に近くの林で輸送車は発見されたが、現金の入ったジェラルミンケースはなかった。遺された遺留品は153点もあったため、事件はスピード解決が予想された。imageしかし、どれも市販されている普通のものばかり。結局、時代は大量生産・大量消費の時代に突入しており、物証から犯人にたどり着くことはできなかった。延べ捜査員16万人弱、費用約10億円が注ぎ込まれたが、1975年12月12日午前零時に時効を迎えた。 事件が起きた1968年は反体制、反権力の空気が強い時代だった。学生運動が最も盛り上がりを見せた頃で、米原子力空母エンタープライズの佐世保入港反対運動や東大安田講堂の学生による占拠もこの年の出来事である。そんな背景もあり、事件の真犯人は学生運動の中心であった全学連(全日本学生自治会総連合)であるとも言われた。imageあるいは逆に、公安警察が学生運動のアジトを捜査するために事件を仕組んだという自作自演説もある。いずれにしても、3億円事件は一人の負傷者も出さず、しかも現金を奪われた銀行も保険に入っていたため実害はなし。「被害者のいない事件」によって犯人は一躍ヒーローとなり、本作以外にも過去に映画、テレビで度々取り上げられている。映画に『喜劇三億円大作戦』(東宝/71年)、『実録三億円事件 時効成立』(東映/75年)、テレビドラマに『悪魔のようなあいつ』(TBS/75年)、『新説・三億円事件』(フジテレビ/91年)、『三億円事件〜20世紀最後の謎〜』(フジテレビ/00年)などがある。
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映画のなかで、犯行当日、トラックを追い越そうとした白バイに、風で飛ばされたシートが絡みつくシーンがある。宮崎あおい演じる犯人はオートバイに絡んだシートを取るのに悪戦苦闘するものの、結局、取れないまま犯行現場に向かう。迫り来る犯行時刻とともに、観客がハラハラする場面だが、事件現場に遺されていたオートバイに緑色のシートが絡んでいたのは紛れもない事実である。つまり、雨のなか、犯人はかなりの負荷を背負って現金輸送車を追いかけていたわけだ。真相は今もわかっていない。一番有力なのは「犯人が見張り用の車からシートを被せてあった白バイに乗り換える際、あわてていたために引っかかった」という説である。
犯人が強奪した金額は正確には2億9430万7500円。事件の5年前に黒澤明の傑作『天国と地獄』が公開されているが、劇中で犯人が誘拐した子供の身代金として要求したのが3000万円である。いかに3億円という金額が大きなものかがわかる。現在の貨幣価値に換算すれば約30億円とも言われる。盗まれたのは東芝府中工場の従業員ボーナスだったが、保険がかけられていたため被害はなく、事件の翌日には社員に対してボーナスが支払われた。さらにその保険にも外国の再保険がかけられていたため、日本人は1円も損をしていないことになる。一人の負傷者も出さない大胆な手口と合わせ、犯人がヒーロー視されることになった大きな理由である。
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中原みすず原作の『初恋』を映像化したのは 本作が劇場映画2作目となる塙幸成監督。 60年代という騒然とした時代を背景に、 しかも3億円事件という未曾有の犯罪を通して、 18歳の少女と一人の青年の純愛を鮮やかに描いた。 塙監督に本作への思い、撮影時の苦労などを聞いた。

profile 塙 幸成(はなわ ゆきなり)
助監督として田中登、中原俊、林海象らの下につく。92年ミニドキュメンタリー『ネクストバッターズサークル』を企画・監督し、関西報道写真テレビ部門1位に。95年映画監督デビュー作『tokyo skin』はロッテルダム映画祭他多数の映画祭に出品され、チェン・カイコーらから大絶賛される。1965年生まれ。

── 監督は1965年生まれですから、3億円事件当時はまだ3歳だったわけですが。

塙 リアルな記憶というのはほとんどないですね。指名手配のポスターが交番なんかに貼ってあったのを憶えている程度です。でも、今回、監督するにあたって調べ直してみると、非常に面白い時代なんですよね。アングラ芝居があり、アートや音楽も新しいものがどんどん出てきた。それに、あんなに詩を読んだ時代はないんじゃないかっていうくらい若い奴らが詩を読んでいた。もちろん学生運動もありました。イデオロギーはともかく時代風俗として見た場合、今も憧れに近いものは感じますね。

── そんな時代が舞台となった原作を読まれたときの印象は?

塙 最初に読み始めたときは、その時代をちゃんと生きた人が監督したほうがいいのかもしれないという気持ちもありました。でも、僕なら、60年代という時代は裏に回し、恋愛ドラマとして撮る…。それなら面白いものができると思いましたね。

── 映画の終盤は原作とは違いますね。主人公の恋愛をどう描くか、かなり苦心されたのではありませんか。

塙 結局、3億円事件というものをどう位置づけるかなんですね。3億円事件の成功とともに、恋愛ドラマとしてのピークも迎えるわけですが、そこのところの構成ができるまでに苦労しました。ベタな恋愛ドラマとして盛り上げればいいわけでもないし、ピカレスクロマンみたいに、3億円強奪に成功して、みすず(宮崎あおい)と岸(小出恵介)が二人でどこかに逃亡したというような話でもありません。事件の後に挫折があり、ある意味では二人の感情は別なベクトルに向かわざるを得なかった。恋愛映画の主人公として描くにはなかなか難しかったですね。

── しかし、最後はグッときます。

塙 恋愛映画としてのクライマックスを3つ用意しましたが、最後のクライマックスはみすずも涙を流すし、観客も泣けるはずです。

── この映画で描かれる3億円事件は成功だったといえるのでしょうか。

塙 ただお金ほしさの事件なら3億円を強奪してそれで終わりでしょうが、それではつまらない。現実の事件として見ても、3億円事件はただの事件ではなく、当時の社会現象でもあったと思います。そこを描きたかった。60年代後半というのは学生運動が挫折し、敗北していく時代です。その時代にたった一つだけ彼らが権力に勝ったものがあるとすれば、それが3億円事件だった。でも、それも結局、勝ちにはならなかった……そういうつくりにしたかった。

── 雨のシーンが多いし、印象的ですね。

塙 映画では描かれませんが、みすずがお母さんと別れるときが雨なんですね。それに何より3億円事件当日が雨。脚本を書く段階から雨はこの物語の大きな要素だと思っていたし、雨でみすずの悲しみを表現したかった。みすずは泣かない子ですし、彼女の気持ちの代わりに雨を降らせたとも言えますね。

── ロケ場所に苦労したそうですが。

塙 当時の新宿南口から2丁目あたりのうらぶれた一帯を舞台にしたくて、それに見合う場所を探すために九州まで行きました。何度も出てくる階段のシーンがそうです。ですから、あるカットは九州だけど、カメラを切り返すと浅草、もう一度切り返すと今度はセット、みたいなことはありますね(笑)。

── 演出家として宮崎あおいさんをどう思われましたか。

塙 彼女自身がまず原作を読んでこの役をやりたいと思ったくらいで、思い入れはすごくあったんだろうけど、現場には真っ白な状態できてくれた。そして、僕やスタッフや相手の役者と話しながら、芝居を組み立てていった。ですから、演出家としては非常にやりやすかったですね。それと、とても目の力が強い女優です。セリフがなくても、その思いを目だけで表現することができる。

── 相手役の小出恵介さんについて。

塙 最後まで決まらなかったのが彼が演じた岸です。今の若い役者はみんな現代っ子っていうか、ちょっと大丈夫かなという印象だったんです。たとえば渋谷にいる若者だと、清潔感みたいなものに欠ける。あの時代の若者ってどこか清潔なカッコよさみたいなものがあったんじゃないかと思うんですよ。たとえば、ヤクザ映画における高倉健さんや鶴田浩二さんみたいな…。別にヤクザに清潔感があるというんじゃないけど、そういう匂いのようなものが欲しかった。小出君には他の役者にない清潔感がありましたから。

── 最後にメッセージをお願いします。

塙 幅広い世代に楽しんでいただける作品だと思います。60年代を知っている人は、あの時代の気分を味わってほしいし、若い人には宮崎あおいちゃんと小出君の恋愛ドラマを楽しんでほしい。そして、3億円事件を、ただの犯罪ではなく、ある時代の社会現象としてとらえてもらえると嬉しいですね。こんな事件の背景も、あるいは、こんな犯人の可能性もあったんだと……。

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ストーリー
高校生のみすずは小さい頃から孤独だ。母は兄を連れていなくなったきりだった。ある日、みすずは新宿のジャズ喫茶に足を運ぶ。そこは数日前、突然現れた兄が手渡したマッチに記された店だった。店に出入りする仲間との付き合いが彼女を少しずつ変えていく。そしてある日、仲間の一人、東大生の岸が彼女に驚くべき相談を持ちかけた。

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戦後の昭和を、あるいは高度成長に沸いた1960年代日本を象徴する空前の完全犯罪ミステリー。3億円事件はその鮮やかな犯行ゆえに犯人はヒーロー視された。犯人像についても諸説あり、1975年の時効成立後も数多くの映画、ドラマ、小説で取り上げられた。そして2002年、「犯人は私です」と名乗った上で、犯行の詳細と背景を綴った手記が小説として発表された。犯人は当時18歳の女子高生だというのだ。それが中原みすず原作の同名小説であり、本作はその待望の映画化。しかし映画はただ3億円事件の謎解きをし、犯人を明らかにするだけではない。タイトルが示すように、これは一人の少女の鮮烈な純愛ドラマである。舞台となるのは当時の新宿。実兄や作家志望の浪人生やアングラ劇団の女優らが集うジャズ喫茶に出入りし始めた少女に、東大生の青年がある日、声をかける。「オレは角材や石ではなく、頭を使って国家権力に挑む」。時代は体制に反抗した学生運動が敗北の道を歩みつつあった頃だった……。

「十代最後の出演作に」と宮崎あおいが切望した映画

ヒロインのみすずを演じるのは宮崎あおい。『NANA』に出演、『ただ、君を愛してる』『NHK大河ドラマ篤姫(あつひめ)』の公開が控えるなど、今一番輝きを放つ実力派女優。本作は彼女が映画化決定以前に原作を読み、十代最後の出演作にと切望した作品でもある。強い目の表情でヒロインの大人に対する嫌悪や少女特有の危うさを表現し、彼女以外にこの役は考えられないほどの存在感を示している。彼女を事件へと引き込む青年にはドラマ『ごくせん』『おいしいプロポーズ』や映画『パッチギ!』などで毎回違った個性を見せる期待の若手俳優・小出恵介。映画は3億円事件成功へと至るプロセスと、二人の切ないほど純粋な初恋の想いを交差させ、そしてあの時代ならではの青春群像の熱気を照射しながら至高のラストへと向かって走る。また、紫煙立ち込めるジャズ喫茶や薄汚れたアングラ劇場、学生運動や新宿の喧騒など濃密な60年代を再現した細部も見どころだ。監督は『tokyo skin』で各国の映画祭で絶賛された俊英・塙幸成。永遠に完結することのない初恋の、一瞬の煌きを鮮やかにフィルムに焼き付けた。

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