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監督・廣木隆一、脚本・荒井晴彦、主演・寺島しのぶ--2003年に公開され、日本映画の各賞を独占(主演の寺島しのぶはなんと16冠!)した『ヴァイブレータ』チームが再び結集し、“今”を生きるリアルな女性のドラマを紡ぎ上げた。原作に選ばれたのは『沖で待つ』で2006年度の芥川賞を受賞、30代の女性に圧倒的な支持を受けるベストセラー作家・絲山秋子のデビュー作『イッツ・オンリー・トーク』。寺島しのぶ演じるヒロインは身近な人たちの死をきっかけに躁鬱病となり、一流会社を退職した35歳の独身女性。仕事もなければ、男もなく、金もそれほどあるわけではない。そんな彼女がふとしたことから東京・蒲田に引っ越してユルイ生活を始める。銭湯や商店街の居酒屋、時代遅れのデパート屋上の観覧車、タイヤでつくられた怪獣が置かれた公園……猥雑だけれど、どこか懐かしいこの街の居心地の良さが、肩肘張って生きてきた彼女の心を解きほぐしていく。

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ヒロインがこの街で出会う男たちがまた魅力的だし、それを演じる役者も豪華。 “趣味のいい痴漢”役に廣木作品の常連、田口トモロヲ。街で偶然会ったかつての大学の同級生で、EDの都議会議員に『亡国のイージス』の松岡俊介。ブログを通じて知り合ったうつ病の自称ヤクザには『涙そうそう』の妻夫木聡。出番は多くないが彼の新たな一面が垣間見えて印象深い。そして、浮気相手にも捨てられ、彼女にアパートに転がり込んできた従兄を演じるのが豊川悦司。寺島とは話題作『愛の流刑地』でも共演。ここでは二人が恋人でもなく夫婦でもない、それでも互いを理解し合う不思議な関係を演じてみせる。うつ病がひどくなった寺島と介護する豊川の姿は大きな見せ場だ。しかし、やさしさだけに包まれた映画ではない。都会の一人暮らしの女性の孤独や大切な人を失う怖さも静かに描かれる。そんな等身大の女性の物語を彩る音楽を担当したのはDragon Ashの古谷(降谷)健志、武田真治らのプロジェクトnido。透明感あふれるサウンドがドラマにそっと寄り添う。

現在35歳。独身。一流大学を出てバリバリのキャリアウーマンだった橘優子だが、仕事も男も両親もすべてを失い、縁あって東京の端っこ、蒲田に引っ越した。そんな彼女が出会ったのはEDの都議会議員、趣味のいい痴漢、気弱なヤクザたち。やがて、福岡から従兄がアパートに転がり込んできた。彼らとの日々が彼女の心を柔らかく包み込んでいく…。
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舞台を中心に活躍した後、03年に主演した『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』の演技で、東京国際映画祭最優秀女優賞を始め、この年の映画賞を独占。出演作に『東京タワー』『大停電の夜に』他。1972年生まれ。
1991年『12人の優しい日本人』で本格的映画デビュー。02年『命』で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞するなど今や名実ともに日本を代表する俳優。出演作に『大停電の夜に』『日本沈没』『フラガール』他。1962年生まれ。
1998年に俳優デビュー。01年『ウォーターボーイズ』の好演で注目を浴び、その後話題作に次々に出演。確かな演技力は海外での評価も高い。出演作に『さよなら、クロ』『ジョゼと虎と魚たち』『春の雪』他。1980年生まれ。
漫画家、パンクバンドなどを経て1989年主演作『鉄男』で注目される。以後、本格的に俳優活動を始め、日本映画プロフェッショナル大賞功労賞も受賞。03年には『アイデン&ティティ』で監督業にも進出。1957年生まれ。
ファッションモデルとして活躍後、廣木監督『800 TWO LAP RUNNERS』で映画デビュー。出演作に『突入せよ!「あさま山荘」事件』『この世の外へ クラブ進駐軍』『雨鱒の川』『紙屋悦子の青春』他。1972年生まれ。


── 原作小説との出会いを教えてください。
廣木 『ヴァイブレータ』の後、荒井(晴彦/脚本)さんと森重(晃/プロデューサー)さんと3人で、次は30代の女性を主人公にした映画をやろうと話になっていて、たまたま僕が、文学界新人賞を受賞した『イッツ・オンリー・トーク』を読んでピンと来たんです。選考委員を務めていた山田詠美さんも言っていたけど、この小説には「やさぐれたヒロインが描かれている」。この「やさぐれたヒロイン」というところに、どこかアナクロだけど、すごく「今」を感じさせるものがあった。そこが映画でも描きたかったところですね。
── 主演の寺島さんとは2度目ですが。
廣木 彼女とは『ヴァイブレータ』をやっている最中はあまり言葉も交わさなかったし、少し距離があった。つまり信用されてなかったわけです(笑)。でも『ヴァイブレータ』で信用してくれたというかな……それだけに今度は『ヴァイブレータ』の芝居を裏切るものを引き出さなければいけないと思いました。寺島しのぶの演技の幅はもっと広いし、僕としても『ヴァイブレータ』とは違うリアルさを見せたかったですから。


── 寺島さんの演技に対して、注文を出すようなことはあったのですか。
廣木 彼女のほうから「この女性はこんな感じですか」というようなことは絶対に聞いてこない。脚本を読み、そこに書かれていることがすべて。それでちゃんとわかってしまう女優ですね。僕は役のイメージだけを伝えました。今回は「ブーツを履いて、蒲田の街をドタドタ歩いてもらいます」と。ただ、「うつ」のシーンの撮影が続いたりして、彼女自身がバランスを崩すこともあった。たいへんだったと思います。それだけ演技への集中力がすごいということですね。
── 豊川さん演じる祥一はなかなかユニークなキャラクターです。
廣木 原作を読むと、途中まではすごい若いヤツだと思うんだけど、最後に40代だとわかる。そこが面白い。でも映画は映像だからすぐに40代だとわかってしまう。そのへんが難しいですね。ただ、豊川さんには40代だけど、20代みたいな行動をしている……そういう軽やかな中年を演じてほしかった。衣装合わせで革ジャンにツンツルテンのパンツを履いてもらったときは、さすがに引いていましたけどね(笑)。でも、本人もノリノリで、楽しんでやってくれました。
── 妻夫木さんのチンピラ役も、他の作品では見られない魅力がありました。
廣木 あえてヤクザのイメージのない人ということでぜひ彼に演じてほしかった。彼が最初に登場する雑踏のなかでのシーンは騒ぎにならないように、遠くから撮影したんですが、誰も気がつかなかったですね。ステレオタイプなチンピラの格好をしてもらったんだけど、蒲田にはよくいるタイプだから、かなり街に溶け込んでいました(笑)。
── nido(降谷健志、武田真治らのプロジェクト)が担当した音楽も印象的です。
廣木 (降谷)健志には、彼がDragon Ashでデビューする以前に僕の映画に出てもらった。そのときの約束で彼らのPVをつくったことがあったんですが、一度、僕の映画の音楽をやってほしかった。すごく才能があるし、今回も素晴らしい曲を書いてもらいました。
── それにしても廣木監督は女性を描くのがうまいですね。女性の気持ちがよくわかるというか……。
廣木 僕が描きたいのは人と人との関係性、その距離なんです。で、映画の主人公は女性か男性のどちらかでしかないわけです。だったら女性のほうを撮りたい。自分にないものに憧れるというか、女性のほうが凛々しいですから。そんな頑張っている女性を応援したいという気持ちはすごくあります。


廣木隆一(ひろき りゅういち)
1982年監督デビュー。03年、寺島しのぶ主演の『ヴァイブレータ』で一大センセーションを巻き起こし、海外でも高い評価を得る。代表作に『800 TWO LAP RUNNERS』『機関車先生』『L'amant ラマン』他。1954年生まれ。



