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グエムル

韓国歴代観客動員1位、韓国初日動員記録1位、韓国動員1000万人突破最速記録更新など、空前の大ヒットを記録。カンヌ国際映画祭で初上映されるや世界中のメディアが絶賛した話題のモンスター映画がいよいよDVDで登場する。監督は前作『殺人の追憶』の大ヒットにより高い芸術性と商業性が評価され、“韓国のスピルバーグ”とも言われるポン・ジュノ。弱冠36歳ながら、今回も気骨溢れる社会批判の眼差しと深い人間洞察力を随所に見せる。しかも、それを誰もが楽しめる娯楽映画に仕上げたのだから映像作家としてのスケールは計り知れない。何よりドラマとしての完成度の高さが素晴らしい。怪物グエムルはソウル中心を流れる大河に現れ、川辺の人々を次々に襲うのだが、これはそのグエムルに幼い娘をさらわれた一家が命がけで救出に乗り出す物語である。その核心には強い家族の絆があり、背景には環境汚染の問題や国家の民衆に対する不誠実な対応がある。ただし、シリアス一辺倒ではなく、ブラックなユーモアがしばしば笑いを呼ぶ。

本作のヒーローとも言うべき一家の顔ぶれがなかなかユニークだ。娘の父(ソン・ガンホ)は店番中も居眠りをしてしまうダメ男。その弟(パク・ヘイル)、つまりさらわれた娘の叔父は元学生運動家で今は失業中。妹(ぺ・ドゥナ)はここ一番に弱いアーチェリー選手。さらにこの頼りない3兄弟を束ねる祖父(ピョン・ヒボン)。一家は弓や火炎瓶といった原始的な武器でグエムルに挑む。しかし、被害者であるはずの彼らは「グエムルによって感染したウィルスをまき散らしている」と政府から追われるハメに。こうして話は予測のつかない方向へスリリングに転がっていく。そして一家以上にも風変わりなのが怪物グエムルだ。魚のような顔と恐竜を思わせる体。グロテスクだが、ときに滑って転ぶなど愛嬌ある姿も見せる。クリーチャーを手がけたのは『キング・コング』や『ロード・オブ・ザ・リング』の特撮工房WETAワークショップ。未だかつて見たことのない怪物と個性的な一家が繰り広げる戦いは掛け値なしに面白い。

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── 日本と違って韓国には怪獣映画の伝統はありません。その韓国で『グエムル』が成功を収めることができたのはなぜだと思いますか。

"ジュノ おっしゃる通り、日本は『ゴジラ』シリーズに代表されるように怪獣映画の本家とも言える国であり、韓国にはそうした映画の伝統はありません。いわばこの作品は突然変異のように韓国で生まれた映画です。ですから、撮影中は私自身にも戸惑いがありました。しかし、私がこの作品を通して描きたかったのはグエムルそのものではなく、グエムルが登場することを契機にして起きる、さまざまな人々の反応でした。怪獣映画ではなく、怪物と闘う家族の映画なのです。見ていただければ、従来のエンターテインメント色の強い怪獣映画とは明らかに違うことがわかっていただけると思います。

── 映画の構想を抱いた経緯を教えてください。

ジュノ 子供の頃から、ネス湖のネッシーには関心がありました。そして、映画少年だった高校時代、漢江を眺めながら思ったのです。もし、この市民の憩いの場に怪物が出現したらどうなるだろう。衝撃的な映画ができるのではないかと……そんな思いが今回実を結んだとも言えます。

── グエムルと戦うのは軍隊や強いヒーローではなく、漢江の河川敷で売店を営む庶民的な一家ですが…

ジュノ 普通の怪獣映画には軍人や天才科学者などのスーパーヒーローが出て来ますが、私の映画には必要ありません。グエムルと死闘を繰り広げる一家は、あえてグエムルと戦うという行為が最も似合わない、最も情けない家族にしました。そこに、この映画の核心があると言ってもいいでしょう。彼らの闘いはとても孤独で、ハードです。それは、彼らが闘う相手がグエムルだけでなく、世の中だからです。この一家のように力のない人々をこれまで国家や国家がつくったシステムが助けたことがあっただろうか。そして、そうした悲劇は韓国に限らず、どこの国でも起こり得るのではないか……そんな疑問をこの映画によって投げかけたかったのです。

── グエムルを生み出した原因は在韓米軍から流れ出した化学物質だという設定ですが、これは何か意図するところがあったのでしょうか。

ジュノ 実は数年前に米軍が流した化学物質によって川が汚染したことがあり、その事件をもとにしています。『ゴジラ』が原爆の放射能によって生まれたのと同じです。でも、それは物語の出発点。公開前に反米映画だと言われたこともありますが、アメリカを風刺しただけの作品ではありません。先ほどお話したように、主人公の一家を苦しめる、もっと大きな存在が他にあるのです。

── 巨費を投じてグエムルを開発したのは『ロード・オブ・ザ・リング』や『キング・コング』を手がけたニュージーランドのWETAワークショップですが、監督としてどのようなリクエストをされましたか。

ジュノ グエムルの顔や形をデザインする上で一番重視したのはリアリティです。この作品におけるグエムルはファンタジー映画のモンスターではなく、時代性や現実を映し出す存在。汚水によって魚の奇形が問題になったことがありましたが、そうした日常性につながる怪物であるべきだと、まず考えました。しかも、その怪物と闘うのはごく普通の韓国の人々。ブラッド・ピットやニコール・キッドマンではありません(笑)。ですから、グエムルは韓国的、あるいはアジア的な怪物にしたかったんです。

── 実際に参考にしたようなモンスターはいなかったのですか。

ジュノ 人間臭い怪物をつくりたかったですね。歩き方もどこかおかしく、勢い余って倒れたり、階段で転んだり……。そうやって、ときにはヘマをする怪物にしたかった。その意味で、参考にしたのは怪物より人間のキャラクターや行動でした。たとえば、アメリカのスティーブ・ブシェミや『Shall we ダンス?』の演技が印象的な竹中直人さんなどです(笑)。

── 確かに、グエムルはかなりの演技力の持ち主かもしれませんね(笑)。

ジュノ 実は、グエムルは性格の歪んだハイティーンの象徴です。ヒステリックにいらだったり、凶暴な行動に駆られたり。今の若い世代の怒りを表現しているとも言えますね。

── グエムル以上に見事なのが、この映画の出演者の演技だと思います。

ジュノ この映画の主人公は怪物と闘う家族です。それをソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソンといった役者が素晴らしい演技で支えてくれました。もし、この映画が輝いて見えるなら、それは彼らの力によるものです。

profile
ポン・ジュノ
延世大学卒業後、インディペンデント映画を経て2000年に『ほえる犬は噛まない』で長編監督デビューを果たす。03年には実際に起きた殺人事件を基にした『殺人の追憶』を監督し、韓国で500万人を動員。商業性と芸術性を持ちあわせた監督として高く評価される。1969年生まれ。

── ポン・ジュノ監督の映画に主演するのは『殺人の追憶』に続き2度目です。しかも怪獣映画だったわけですが。

ガンホ もともと怪獣映画にはほとんど関心がありませんでした。でも、奇妙で未知なるものへの興味があったし、監督がポン・ジュノでしたから。彼が監督でなければ、出演しなかったと思います。

── ソンさんの役は、グエムルに娘をさらわれる父親。それも仕事に熱心ではないし、どこか頼りない父親ですが…。

ガンホ 映画の表面だけ見るなら、私が演じた父親はただの滑稽な人物かもしれない。しかし、このドラマのなかにあって彼こそが最も正常で、最も純粋な人物だと思います。ともすれば私たちは、社会のシステムや世の中の常識・秩序といったものに慣れすぎてしまって、本当に純粋な気持ちというものを忘れてしまっている。家族を思う気持ちというのもその一つです。ところが、私が演じた、少し頼りない父親にはそれがあります。怪物に娘をさらわれたら、わき目もふらずに娘を探そうとし、一人でもその怪物に立ち向かっていくのですから。

── 映画のなかには社会批判、社会風刺の場面が随所にあり、しかもそれが笑いにつながっていますね。

ガンホ ポン・ジュノ監督の作品には悲劇と喜劇が同居しています。それは彼がリアリズムの作家だからです。笑いのすぐあとに悲しみがあり、いつまた笑いが起こるかもしれない。それが人間の営みではないでしょうか。

── ポン・ジュノ監督から役づくりの上で何か提案はありましたか。

ガンホ 彼は俳優に対して、特別な注文をするというスタイルの監督ではありません。しかし、精神的に俳優をクタクタにする監督であるのは間違いない(笑)。とくに、それがひどいのは重要なシーンの撮影があるときです。そのシーンが近づくと、数日前から私たちと顔を合わせるたびに、何気なくその話題を投げかけてくるのです。結局、私たちはその間、必死に悩みながら役について考えます。だから、夜も眠れない(笑)。撮影は六カ月にわたりましたが、少しも気を抜くことはできませんでした。

── 撮影中のエピソードがあれば…。

ガンホ 怪物と闘うシーンといっても、実際に怪物はそこにいません。つまり見えない怪物を相手に叫んだり、走ったりしているわけで、ロケ中、通りすがりの人たちが奇異な目で私たちを見ていたのをよく覚えています(笑)。

profile
ソン・ガンホ
韓国映画界の製作者や観客の間で、圧倒的な信頼と演技力、そして確実な興収をもたらす名優として知られる。96年映画デビュー。出演作に『シュリ』『大統領の理髪師』『JSA』『復讐者に憐れみを』他。1967年生まれ。

出演者メッセージ
ペ・ドゥナ

ペ・ドゥナ

日本の青春映画『リンダ リンダ リンダ』でも群を抜く存在感でファンを魅了したペ・ドゥナ。毎回イメージや芸風や姿を変え、類いまれなる演技力を見せる彼女が今回演じたのは、姪を心から愛する長女ナムジュ。姪救出のために得意のアーチェリーで果敢に怪物に挑んでいく。「漢江の河川敷はニューヨークで言えばセントラルパーク。市民の憩いの場です。その漢江の下水道をさまようなど、普通では絶対にできない体験をしました。素晴らしい映画に出られて幸せです」。1979年生まれ。

パク・ヘイル

ソン・ガンホの弟役。学生運動の経験を生かし火炎瓶で怪物と闘う次男ナミルを演じたのは、デビュー以来、殺人容疑者からプレイボーイまで幅広いキャラクターを演じ、高い評価を得ている若手俳優パク・ヘイル。「とにかく撮影はたいへんでした。とくに大学時代の先輩に裏切られ、走って逃げるシーン。嫌になるくらい走ってやっと終わったと思ったら、監督は烽、1回行こうニ(笑)。しかし、できあがったのは、そうした苦労が生かされた最高の作品でした」。1977年生まれ。

パク・ヘイル
ピョン・ヒボン

ピョン・ヒボン

グエムルと闘う一家の家長ヒボンを演じるのは70年代のTVドラマに数多く出演し、独特の存在感で人気を得たベテラン俳優ビョン・ヒボン。ポン・ジュノ監督とは『ほえる犬は噛まない』以来の盟友。今回もさえない長男をかばい、長女を誇りに思い、変わり者の次男を心配し、孫を溺愛する家長を力強く演じた。「これほどの反響が得られる映画で、これほど魅力的な役を演じられるとは想像しませんでした。監督とは信頼感以上の深い絆で結ばれています」。1942年生まれ。

コ・アソン

パク一家の希望の星、そして怪物にさらわれる中学生のヒョンソを演じたのはこの映画がスクリーンデビュー作となるコ・アソン。「私が演じたヒョンソは現実の私とほとんど同じといってもいいほど似ています。だから、自然に役に入っていくことができました。ただ、現実に同じ状況に置かれたとき、映画のように人を助ける勇気があるかどうかはわかりませんが…。それと、当初の予定と違って、実際に川に落ちてほしいと言われたときはショックでした(笑)」。1992年生まれ。

コ・アソン