韓国では異端の映像作家と恐れられ、欧米ではその独創的な世界観が高く評価されるキム・ギドク。2004年は彼の名が映画史に刻まれた年だった。『サマリア』でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を、『うつせみ』ではヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を連続受賞。発表される作品は常に賛否両論を巻き起こしながらも、彼自身は孤高の姿勢を貫き、唯一無二の手法で「愛」の世界を追い求めてきた。そんなギドクだから描き得た高純度のラブストーリーが『弓』である。舞台となるのは海に浮かぶ小さな船の上。ここに世間から隔絶されたように老人と、彼がどこからともなく連れてきた少女が二人きりで暮らしている。老人は少女が17歳の誕生日を迎えたら結婚するつもりだ。老人の仕事は客を船に案内し、釣りをさせること。そして占いをすること。彼は稼いだ金で少しずつ婚礼衣装を整えていく。小さな船はまさに老人にとっての楽園なのである。
釣り客の好奇の目にさらされながらも揺らぐことのなかった老人と少女の関係が、一人の青年の出現によって不穏な気配をはらみ始める。青年に淡い恋心を抱いた少女が、老人に反抗的な態度を取り始めるからだ。奇妙な三角関係はいったいどこへ向かうのか…。ギドク自身の言葉を借りれば、これは「孤独な男の欲望と希望の物語」である。そして、許されるはずのない想いがいかに「下劣で、崇高で、悲しく、美しく、そして幸せなものになり得るか」を鮮烈な映像で描いた作品である。セリフらしいセリフもほとんどない老人と少女の愛の物語が迎える衝撃のクライマックスとは…。老人役に『清風明月』のチョン・ソンファン。少女には『サマリア』にも出演し、今やギドク作品のミューズとも呼ぶべきハン・ヨルム。あどけなさのなかに宿る妖艶なエロチシズムに目を奪われる。韓国では弓は日本の刀にも匹敵する精神性の象徴だという。ギドクが弦をいっぱいに引いて放った矢は美しい放物線を描き、観る者の心を射抜く。
世界が認める鬼才
デビュー作『ワニ』がスウェーデン映画祭で上映されたのを始め、すべての作品が国際映画祭で上映される。2004年にはベルリン国際映画祭(『サマリア』)とヴェネチア国際映画祭(『うつせみ』)で監督賞を連続受賞。韓国の異端児とも、世界の鬼才とも称される。1960年生まれ。

