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悪魔探偵ラッキーナンバー7

「ああ、いやだ、ああああ、いやだ、
ああ、いやだ」。

まったく生気のない表情で、こんなセリフを冒頭から口にするヒーローも珍しい。 本晋也監督の最新作に登場する主人公は、他人の悪夢に潜り込めるという、あまりうらやましくない特殊能力をもった悪夢探偵。そんな探偵が、やはり心に闇を抱えた美人刑事と組んで不可解な殺人事件の犯人を追うことになる。事件に共通するのは、携帯電話に残った「0(ゼロ)」という何者かの存在と「夢」。細かいカッティングと強烈な効果音でつくる、得体の知れない何かに襲われる恐怖感は他では味わえない。あえてジャンル分けすればサイコサスペンスなのだろうが、そこは鬼才・ 本監督、ありきたりのサスペンスにはしない。 本ワールドとしか呼べない唯一無二の世界観で突っ走り、ついには登場人物の深層心理にまで分け入っていく。その展開は、デビュー作『鉄男』から『六月の蛇』『ヴィタール』へと至るテーマの深化と見事に呼応する。

主人公の悪夢探偵を演じるのは、塚本監督自ら「この人しかいない」と指名した松田龍平。探偵とは言うものの、他人のドロドロした悪夢の中で暗闘し、結局は自らも心の傷を負うことになるという“アンチ・ハリウッド”なヒーロー像を陰影豊かに演じ、本ワールドをよりディープなものにしている。ヒロインの女性刑事にはミュージシャンとして独自の輝きを放つhitomi。眠ったら夢の中で殺されるため、必死で目を見開く。その瞳の演技がドラマのテンションを高める。彼女の同僚刑事には、今や日本映画に欠かすことのできない若手実力派俳優の安藤政信。他にも大杉、原田芳雄ら豪華な顔ぶれが脇を固める。また、本作はローマと釜山の2つの映画祭で同日にワールドプレミア上映を開催。両映画祭で大絶賛されるとともに、すでにハリウッドメジャーを含む15社以上の映画製作会社がリメイク権獲得を巡って名乗りを上げている。まさに世界が注目する衝撃作なのだ。

商品詳細

松田龍平
[まつだ・りゅうへい]
1999年『御法度』でスクリーンデビューを果たし、日本アカデミー賞他数々の新人賞を受賞。今や日本映画を担う本格派俳優の一人。代表作に『昭和歌謡大全集』『恋の門』『NANA』『世界はときどき美しい』他。1983年生まれ。

── 『悪夢探偵』は、従来の 本作品とは少し語り口が違う印象です。

塚本 僕の映画というのは最初から見る人の頭をハンマーで叩いて、「来るな」と言わんばかりの作品が多かったんですが、今回は間口を広げたというか、入り口の部分をもっと入りやすくしたところはありますね。扱っているのは悪夢ですから、決して気持ちのよい世界ではないんですが、少なくとも前半はスリラーやサスペンスを見ているような語り口にしようと思った。そうやって混沌とした悪夢の世界に引きずりこみ、最終的にはわけがわからなくなってしまう……。その意味ではいつもと変わんないんですけど(笑)。

── シリーズ化するそうですが、探偵もののシリーズ化というアイデアはいつ頃から?

塚本 小学生の頃から明智小五郎が登場する少年探偵団を読み、中学以後もずっと江戸川乱歩の耽美的な小説世界に憧れていました。だから、いつか自分もいかがわしくて、暗い世界の探偵ものをやりたいと思っていました。それと、僕は小さい頃からすごくたくさんの悪夢を見てきた。そんな悪夢から救ってくれる悪夢探偵は、僕にとってのヒーローでもあるんです。ただ、当初は『ウルトラQ』や『ツイン・ピークス』のようなTVシリーズを考えていました。

── 女性刑事の存在がドラマを膨らませていますね。

塚本 女性刑事は映画をつくる直前に出てきたアイデアです。当初は悪夢探偵と自分の体を切り刻む男の対決だけのグログロした話で、40分くらいの中篇だったんですが、ここに女性刑事を入れることでストーリーが広がりました。まして、そのヒロインの深層心理に入っていくわけですから、これは相当エロチックかなあと(笑)。

── hitomiさんの起用については?

塚本 女性刑事はこの作品における狂言回しですから、ポップでメジャーな人を起用したかった。そう考えると、普通の女優さんでは物足りない。その点、hitomiさんはピッタリでした。彼女なら悪夢の世界とまったく逆のイメージで登場し、お客さんといっしょにドロドロした世界に入っていく役を演じられると思いました。

── hitomiさんの足のショットが印象的です。

塚本 もともと自分が足フェチですから。でも、今回はhitomiさんに出演してもらって、足を写さなかったらお客さんの期待を裏切ることにもなりますから(笑)。

── 松田龍平さんはハマリ役ですね。

塚本 独特なオーラがあるというか、あんな神秘的な役者はいないですよね。いかにも他人の悪夢に入っていけそうな雰囲気がある。撮影していて、松田優作さんにそっくりな瞬間があってドキッとしたこともありました。『恋の門』(松尾スズキ監督)で共演したことがあるんですが、主演は彼以外考えられなかった。

── 携帯電話が重要な小道具となっていますが。

塚本 携帯電話というのは、都会の孤独とオアシス感という両面を現している。コミュニケーションしているようで、実はその姿はコミュニケーションから閉ざされているにように見える。一方で人が人と微かにつながっているためのオアシス的な機能を果たしているようにも思えます。

── 最後に読者にメッセージをお願いします。

塚本 僕は、自分の映画をカルトエンターテインメントと呼んでいます。カルトとエンターテインメントという相反するものを両立させたいわけですが、今回はカルトな魅力から外れないようにしつつ、エンターテインメントの比重を大きくしたつもりです。お化け屋敷に入ったり、ジェットコースターに乗ったりするつもりで見てほしいですね。最後は、悪夢とも現実とも区別がつかない摩訶不思議な世界が待っていますから。

塚本晋也[つかもと・しんや]

1989年、デビュー作『鉄男』で世界中の映画ファンや批評家に衝撃を与えて以来、精力的な映画活動を続ける。『六月の蛇』でベネチア国際映画祭審査員特別大賞を受賞。『ヴィタール』でブリュッセル国際映画祭銀鴉賞受賞。役者としての評価も高い。1960年生まれ。