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トム・フォードインタビュー

シングルマン - A SINGLE MAN

稀代のファッションデザイナー トム・フォードが描くのは、
自らの生き方をさらけ出し、愛の本質に迫る感動作。


グッチを立ち直らせ、イヴ・サンローランを改革し、2005年には自身の名前を冠したブランドを立ち上げた、稀代のファッションデザイナー、トム・フォード。彼が次なるステージに選んだのは、かねてから惚れこんでいた映画の世界だった。そして遂に完成したフォードの初監督作品が、2009年のヴェネチア国際映画祭を皮切りに、世界中の映画祭で熱狂を巻き起こした。 フォードの出現は、かつてアルモドバル、タランティーノ、テリー・ギリアム、フランソワ・オゾンら不世出の才能が、初めて世に出た瞬間に全世界に与えた衝撃と興奮を思い出させた。当時の彼らのように、映画で何が出来るのか果敢に戦いを挑んだ作品が高く評価され、20の映画祭で14部門受賞、23ノミネートという栄誉に輝いた。
さらに、現代のモード界に君臨するカリスマの、誰も知らない内面をさらけ出した物語に、多くの観客が共感の涙と賞賛の拍手を惜しみなく贈った。フォードが描いたのは、誰もが抱える孤独や喪失感。完璧な成功を手にした彼自身も例外ではなく、物質的な人生に虚しさを覚えて苦悩の日々を送ったという。努力の末にそれらを乗り越えたフォードは、困難な時代である現代にこそ、"今を生きる大切さ"を伝えたいと考え、同じテーマを持つC.イシャーウッドの同名小説に、自らの体験を盛り込んだ脚本を書き上げた。『シングルマン』は、美を創り出すことにかけては天賦の才に恵まれたフォードが、毎日のささやかな瞬間にこそ人生の素晴らしさが宿ることを、奇跡の映像美で描いた感動作である。

愛する者を失った人生に、意味はあるのか。
コリン・ファース、ジュリアン・ムーアの珠玉の演技に魂が共鳴する。


その日は、ジョージにとって特別な一日だった。16年間共に暮らしたパートナーが交通事故で亡くなってから8ヵ月、日に日に深くなる悲しみを自らの手で終わらせようと決意したのだ。ところが、今日が人生最後の日だと思って眺める世界は、ほんの少しずつ違って見えてくる。英文学を教えるLAの大学の授業でいつになく自らの信条を熱く語り、ウンザリしていたはずの隣家の少女との会話に喜びを感じ、かつての恋人で今は親友のチャーリーを訪ねると、身勝手で孤独な彼女に振り回されながらも慰められる。そして一日の終わりには、彼の決意を見抜いていた教え子のケニーの思いがけない行動に心を揺さぶられる。過去に生きていたジョージの瞳に、"今"が輝きだした運命の一日。果たしてその幕切れは──?
ジョージには、『マンマ・ミーア!』『ラブ・アクチュアリー』のコリン・ファース、チャーリーには『ハンニバル』『ブラインドネス』のジュリアン・ムーア。ハリウッドを代表する二人のスターが、台詞では表現できない孤独から悲しみの慟哭、そして静かな幸福までを、自身の人生の一幕を披露するかのようなリアルな演技で、見事に演じ切った。また、ジョージのパートナーのジムに『マッチ・ポイント』のマシュー・グード、教え子のケニーには『アバウト・ア・ボーイ』のニコラス・ホルトと、期待の若手俳優が扮し、それぞれの存在感溢れる美しさを放っている。聴く者の魂の深みに分け入るような抒情的な音楽は、フォードがたっての希望で指名した『花様年華』の梅林茂。
「愛する者がいない人生に意味はあるのか?」──ジョージと同じように、私たちは生きている限り、幾度となく問いかけるだろう。そして、この永遠の問いかけにひとつの希望を与えてくれる、そんな作品が誕生した。

最愛のパートナーを亡くしてから8ヵ月。
ジョージは悲しみを終わらせる決意をするのだが──。
人生のすべてが詰まった、たった一日の物語。


1962年11月30日の金曜日、今日も新しい朝がやって来た。しかし、この8ヶ月間、ジョージ(コリン・ファース)にとって目覚めは、愛する者の不在を確認する苦痛に満ちた時間でしかなかった。16年間共に暮らしたジム(マシュー・グード)が交通事故で突然亡くなって以来、ジョージの悲しみは癒えるどころか、日に日に深くなっていく。電話が鳴っても、本を開いても、思い出すのはジムのことばかり。若く美しいジムの面影が不意に蘇っては、ジョージの心を砕くのだ。
「だが、今日こそ変えてみせる」ジョージは自らの手で悲しみを終わらせようと決意する。LAの大学で英文学を教えている内省的でシニカルなジョージと、輝くような生命力とユーモアに満ち溢れた建築家のジム。正反対の性格に惹かれ合い、固い絆を結んだ最愛のパートナーの元へと今日、旅立つのだ。
大学のデスクを片付け、銀行の貸金庫の中身をカラにし、新しい銃弾を購入し、ジョージは着々と準備を進める。一方で、今日が最後の日だと思って世界を眺めると、些細なことが少しずつ違って見えてくる。最後の授業では、いつになく自らの信条を熱く語った。講義に触発された教え子のケニー(ニコラス・ホルト)が、学校の外で話したいと追いかけてくる。彼の誘いを断って銀行に行けば、いつも騒がしくてウンザリしている隣家の少女と偶然出会う。ジョージは少女の可憐さに初めて気付き、彼女との正直な会話に喜びさえ感じる。また、通りすがりの魅惑的なスペイン男性と、言葉を交わすひと時を持つことで、美しさに感動する心を取り戻す。
それでも、帰宅したジョージは最後の仕上げにかかる。遺書、保険証書、各種のカギ、「ネクタイはウインザーノットで」のメモを添えた死装束──すべてを几帳面にテーブルに並べれば、あとは銃の出番だ。だが、かつての恋人で今は親友のチャーリー(ジュリアン・ムーア)から電話が入り、ジョージは破るつもりだった約束を守って彼女の家を訪れる。夫と子供に去られて孤独なチャーリーの身勝手な言動に振り回されながらも、未熟で奔放だった青春時代を共にロンドンで過ごした彼女となら、心から笑い合えるのだった。
そして、一日の終わりには、彼の決意を見抜いていたケニーの思いがけない行動が待っていた。果たして、輝き始めたジョージの"今"は、明日へと続くのか──?

コリン・ファース(ジョージ)
COLIN FIRTH(George)


1960年、イギリス、ハンプシャー生まれ。父は歴史の講師で母は比較宗教学の講師という学術一家に生まれる。幼少期をナイジェリアで過ごし、5歳のときにイギリスに戻る。
ロンドンのチョークファームにあるドラマセンターで演技を学び、ウェストエンドの舞台劇「アナザー・カントリー」でプロデビューを果たす。
89年のTVドラマ「TUMBLEDOWN」で、王立TV協会最優秀男優賞と英アカデミー賞にノミネート、95年のヒットTVドラマ「高慢と偏見」でも英アカデミー賞にノミネートされる。
主な映画出演作は、『恋におちたシェイクスピア』(98)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)と続編の『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12か月』(04)、『真珠の耳飾りの少女』(03)、『ラブ・アクチュアリー』(03)、『マンマ・ミーア!』(08)など。様々な役柄をこなす多才な俳優として評価されてきたが、本作『シングルマン』で英アカデミー賞主演男優賞を始めとする様々な賞に輝くと共に、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされ、ハリウッドを代表する演技派としての地位を確立する。最新作は2月26日より公開になる『英国王のスピーチ』(10)。今作では、2年連続英国アカデミー賞主演男優賞受賞の快挙、念願のゴールデン・グローブ賞男優賞(ドラマ)受賞、そして、米国アカデミー賞主演男優賞ノミネートと、昨年に引き続き賞レースを賑わしている。

ジュリアン・ムーア(チャーリー)
JULIANNE MOORE(Charley)


1960年、アメリカ、ノースカロライナ州生まれ。
ボストン大学で演劇を学んだ後、映画や舞台に出演する。97年に『ブギーナイツ』でアカデミー賞助演女優賞に、2000年には『ことの終わり』で主演女優賞にノミネートされる。03年には『エデンより彼方に』(02)で同賞主演女優賞、『めぐりあう時間たち』(02)で助演女優賞に同時ノミネートされるという快挙を成し遂げる。さらに『エデンより彼方に』では、全米映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、全米放送映画批評家協会賞、インディペンデント・スピリット賞の最優秀主演女優賞を獲得し、演技派女優としての評価を確実なものとする。
その他の主な映画出演作は、『ショート・カッツ』(94)、『ブギーナイツ』(97)、『ビッグ・リボウスキ』(98)、『ことの終わり』(99)、『マグノリア』(99)、『ハンニバル』(01)、『トゥモロー・ワールド』(06)、『ブラインドネス』(08)など。最新作はゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディ/ミュージカル)j受賞作『キッズ・オールライト』(10)。自身もゴールデン・グローブ賞女優賞(コメディ/ミュージカル)にノミネートされた。

マシュー・グード(ジム)
MATTHEW GOODE(Jim)


1978年、イギリス、デヴォン生まれ。
バーミンガム大学で演技を始め、ロンドンのウェバー・ダグラス演劇アカデミーで古典演劇を学ぶ。『チェイシング・リバティ』(04)で、期待の若手俳優として注目され、ウディ・アレン監督の問題作『マッチポイント』(05)で評価される。その他の主な映画出演作は、『敬愛なるベートーヴェン』(06)、『ウォッチメン』(09)など。最新作は、レイフ・ファインズ共演の『CEMETERY JUNCTION』(10)、エイミー・アダムス共演の『LEAP YEAR』(10)。

ニコラス・ホルト(ケニー)
NICHOLAS HOULT(Kenny)


1989年、イギリス、バークシャー生まれ。
12歳の頃から子役として活躍し、2002年の大ヒット作『アバウト・ア・ボーイ』でヒュー・グラントと共演し、一躍有名になる。その後、TVシリーズ「ウェイキング・ザ・デッド 迷宮事件特捜班」(01)、「刑事ヴァランダー 白夜の戦慄」(08)、TVドラマ「COMING DOWN THE MOUNTAIN」(07)など、数々のTV作品に出演、人気を集める。主な映画出演作は、『ニコラス・ケイジのウェザーマン』(05)、エミリー・ワトソンと共演した『WAH-WHA』(05)、『KIDULTHOOD』(06)、レイフ・ファインズ、リーアム・ニーソンと共演した『タイタンの戦い』(10)など。最新作は、『Fury Road』(11)。
本作『シングルマン』(09)への出演がきっかけで、「トム・フォード」ブランドの2010年春夏アドキャンペーンのモデルに起用される。

ジョン・コルタジャレナ(カルロス)
JON KORTAJARENA(Carlos)


1985年、スペイン生まれ。
「トム・フォード」ブランドのアドキャンペーンのモデルとして活躍、ブランドの "顔"として広く知られている。他にも、「GUESS」、「Trussardi」、「Bally」、「Etro」などのブランドと契約しているトップモデル。 本作『シングルマン』(09)が、映画初出演となる。

トム・フォード(監督・脚本・製作)

1961年8月27日、アメリカ、テキサス州オースティン生まれ。テキサスと、ニューメキシコのサンタフェで育つ。ニューヨーク大学、パーソンズ・スクール・オブ・デザインにおいて美術史と建築を学ぶ。
ファッションデザイナーとして最もよく知られ、グッチやイヴ・サンローランといったファッションブランドの再生化を図った立役者でもある。大々的なコレクションや刺激的な広告キャンペーンを行い、グッチ社を世界最大にして最も収益の上がる高級ファッション複合企業の一つに押し上げた。2004年にグッチ社を去り、映画製作会社フェード・トゥ・ブラック社を立ち上げ、05年には自身の名前を冠したファッションブランドを立ち上げた。ファッション業界における成功は受賞した数々の賞によって裏打ちされている。その賞に、権威ある米ファッション協議会(CFDA)から贈られた5つの賞、VH-1/ヴォーグ・ファッション賞から贈られた5つの賞、およびクーパー・ヒューイット国立デザイン美術館デザイン賞のファッションデザイン功労賞などがある。08年、『007/慰めの報酬』で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドの衣装を担当する。同年より日本でもショップを展開している。

クリストファー・イシャーウッド(原作)

(※日本での出版物の表記はクリストファー・イシャウッド)
1904年、イギリス生まれ。1986年、アメリカ、カリフォルニアで死去。
ケンブリッジ大学を卒業し、1929〜33年に英語教師としてドイツのベルリンに住む。この時の経験をもとに書かれたのが、「ノリス氏の処世術」と「さらばベルリン」。その後、アメリカに渡り、この二つの小説を一冊にまとめた「ベルリン物語」を出版する。劇作家のジョン・ヴァン・ドゥルーテンが「I am a Camera」としてこれを戯曲化、それをベースにミュージカル化されたのが、1966年にブロードウェイで初演された「キャバレー」である。1972年にはライザ・ミネリ主演で映画化され、アカデミー賞8部門を受賞し、大ヒットを記録した。
画家ドン・バチャーディとの生涯にわたる恋人関係はよく知られ、2007年にドキュメンタリー映画『Chris & Don. A Love Story』が制作された。また、デイヴィッド・ホックニーが描いた二人の肖像画も有名である。

アリアンヌ・フィリップス(衣装)

1963年、アメリカ、ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。
90年代から映画の衣装デザインを手がける。2005年には、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』で、アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされる。
音楽の世界でも活躍、97年から10年間、マドンナ個人のスタイリストとして、PVやツアーの衣装を担当する。また、レニー・クラヴィッツ、コートニー・ラヴ、ジャスティン・ティンバーレイクらのスタイリングでも知られる。
衣装を手がけた主な作品は、『17歳のカルテ』(99)、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)、『"アイデンティティー"』(03)、『3時10分、決断のとき』(07)、トム・クルーズ、キャメロン・ディアス主演の『ナイト&デイ』(10)など。最新作はマドンナが監督する『W.E.』(11)。

ダン・ビショップ (美術)

1989年、ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』で、初めて美術監督としてクレジットされる。その後、『コーヒー&シガレッツ』(03)で再びジャームッシュ監督と手を組む。
TVシリーズでも活躍、2004年に「Carnival」(03〜05)でエミー賞を受賞、翌05年にも同作でノミネートされる。06年には人気シリーズ「ビッグ・ラブ」を手がけ、高く評価されている作品「マッドメン」(07〜09)では、08年と09年に連続してエミー賞にノミネートされる。

アベル・コルゼニオフスキー(音楽)

1972年、ポーランド、クラコウ生まれ。クラコウの音楽学院で作曲を学ぶ。その後、本国で様々な舞台や映画の音楽を手がけ、数々の賞を受賞する。2004年、フリッツ・ラングのサイレント映画『メトロポリス』(27)がニュープリントで上映される際に、新たな音楽を作曲する。
本作『シングルマン』(09)で、ゴールデン・グローブ賞オリジナル歌曲賞にノミネートされ、サンディエゴ映画批評家協会賞作曲賞を受賞する。

梅林茂(追加音楽)

1951年、福岡県北九州市生まれ。
ニューウェーブロックグループ「EX」のリーダーとして活動、84年に解散した後、映画音楽の作曲を手がけるようになる。『それから』(85)、『友よ静かに瞑れ』(85)で毎日映画コンクール、日本アカデミー賞などの音楽賞を受賞する。その後、『眠らない街 新宿鮫』(93)、『不夜城SLEEPLESS TOWN』(98)、『陰陽師〜おんみょうじ〜』(01)など、40本を超える映画を担当する。 海外でも高い評価を受け、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(00)と『2046』(04)、チャン・イーモウ監督の『LOVERS』(04)と『王妃の紋章』(06)、アンドリュー・ラウ監督の『デイジー』(06)、ピーター・ウェーバー監督の『ハンニバル・ライジング』(07)などを手がけている。

エドゥアルド・グラウ(撮影)

1981年、スペイン、バルセロナ生まれ。
世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した短編映画『The Natural Route』(04)の撮影を手がけ、自身もパームスプリングス国際短編映画祭で撮影賞を受賞し、注目される。短編映画『Bitter Kas』(04)では監督と脚本を担当し、国内の賞とアルゼンチンのマルデプラタ映画祭最優秀短編映画賞を受賞する。2007年には、共同監督と撮影を務めたドキュメンタリー短編映画『Scarlet Sunrise』(07)で、ミュンヘン・インターナショナル・フェスティバル・オブ・フィルム・スクールズの最優秀ドキュメンタリー賞を受賞する。続く短編映画『Friends Forever』(07)で、再びパームスプリングス国際短編映画祭撮影賞を受賞する。 続く短編映画『FRIENDS FOREVER』(07)で、再びパームスプリング国際映画祭撮影賞を受賞する。『Kicks』(09)で初めて長編映画を手がけ、まだキャリアは浅いものの、撮影監督を決めあぐねていたトム・フォードに見出され、『シングルマン』(09)の撮影監督に抜擢され、大役を果たす。最新作は、『Buried』(10)。

『シングルマン』トム・フォード インタビュー

<雑談>

トム・フォード監督:
どうしてみんなが待ってるのか、全然わからなかったんだ。みんなの話し声は聞こえるけど、何だか自分が愚かに思えて、謝ってしまったんだ。それで笑ったんだけど、嫌味だったかもしれないね。

インタビュア:
そんなことはないです。

監督:
よかった。悪く取らないでいてくれて嬉しいよ。君はいいインタビュアだ。どんどん聞いてくれ。

<これよりインタビュー>

インタビュア:
この作品の準備にずいぶん費やされたようですが、それはどうしてですか?

監督:
映画をずっと作りたかったんだ。そう真剣に思いだしたのは、15年くらい前だったと思う。でも時間もないし、能力もなかった。5年前にグッチでの仕事を終えた。だからやるなら今だと思った。映画製作者として産声をあげるまでに長い時間がかかったよ。ファッションデザイナーとしての自分のことは理解している。でも映画作りとなると「観客がトム・フォードの映画を観に来る理由は何だろう? 誰が気に留めるだろう?」と問い掛ける必要があった。そして「自分はどうだろう?自分にとってどれほどの意味があるだろう?」とね。そこで1年半ほどいろいろな脚本や小説を読みまくって、ピンとくるものを探したが見つからなかった。

20代前半、若手俳優としてロサンゼルスに住んでいた頃に、小説「A Single Man」を読んだことがあった。本当に魅了されたよ。ジョージというキャラクターが美しく描かれていた。そのすぐあとで、作者のクリストファー・イシャーウッドに会う機会があって、それ以来、彼の小説すべてのとりこになったんだ。それから数年経って、仕事場に向かって車を走らせていた。確か3年半くらい前だ。その時、作りたい作品にめぐりあえないのはどうしてだろうと思いながら、ふとこの小説のジョージのことが心に浮かんだんだ。そしてもう一度小説を手に取った。中年になって再び読んだ小説は、まったく違っていた。20歳の僕には見えないものが見えてきた。これは未来を見ることができない男の話だ。そして今を生きることを教えてくれる物語だ。我々が生きる瞬間すべてに感謝すること。小説はそう語りかけてきた。僕も同じように人生経験を積んだ。だから今語るにふさわしい普遍的な物語に思えた。僕の直感が、初めての監督作はこれだと語りかけてきたんだ。

インタビュア:
では最初から映像や感覚や、この俳優でいこうというようなビジョンがありましたか?

監督:
ビジョンはなかった。最初は小説に忠実に作ろうと思っていたんだ。でも、じつに美しい小説だが、誰かの頭の中が描かれているだけで、外側の出来事は見えない。映画を作ろうと決心したら、どんな映像にするか考えるし、みんなの助言も求めるよね。その時誰かが「サイレント映画のような映像で、そこにセリフを重ねたらどうか」と言った。そこで僕は小説を劇的に修正しようと考えたんだ。まずプロットを作成した。小説に描かれていない自殺も付け加えた。そして新しいキャラクターを作った。構成に合わせて映像を考え、キャラクターを変えた。

そこに時間がかかったんだ。そして脚本の割り振りにも時間をかけた。脚本を書く段階で、映像を一つひとつ思い浮かべていったんだ。脚本がバラバラになるくらいにね。とにかく、ショットごとに脚本を書き、そこに少し演出も書き加えていった。次にキャスティングに入ったが、ジョージが非常に難しい役だということに改めて気づかされた。この役を演じられる俳優はひとりしかいない。それがコリン・ファースだったんだ。彼を得られて本当にラッキーだったよ。ジョージの外見は非常に上品な硬さがある。でも内側は、とてもロマンチックで、精神性に溢れている。魂のある男なんだ。この映画のコリンはまさにそうだった。コリンの目には温かさがあり、本当にリアルだ。ジュリアンの役は、まさにジュリアン・ムーアに引き受けてほしくて書いた役だ。脚本を最初に送った女優だった。彼女はすぐに承諾してくれたが、それがこの作品の大きな手助けになった。

インタビュア:
映画の映像も難しかったと思いますが、コリンが演じるジョージは内面的に物語る役です。彼との仕事について、またどのように話し合ったのか、聞かせてもらえますか?

監督:
コリンは有名な俳優だ。先ほども言ったようにいろいろな助言を僕は取り入れた。確かジョン・ヒューストン監督が「監督の仕事は配役で決まる」と言っていた。つまり、優れた俳優を配役することで、キャラクターの質が決まる。もちろんキャラクターについてコリンと話し合ったよ。ジョージはこうあるべきだとか、こう感じるべきだといったことをね。でも撮影中は技術的な演出は一切避けた。コリンの顔に長い間カメラを向けたままにしたんだ。彼の表情の微妙な変化が必要だった。それが彼の感情を観客に伝えてくれる。コリンはじつに見事だった。

インタビュア:
映画を作ることで、観客に語りかけていらしたと思うのですが、そのフィードバックはいかがでしたか? どのような反応が返ってきましたか?

監督:
フィードバックは素晴らしいものだった。素晴らしいという言葉に尽きる。観客の反応は誰にもわからない。これは僕の最初の映画だ。僕が愛する映画だ。いつも、自分が愛するものには、全霊を傾ける。大きなエネルギーと努力と愛情を注ぎ込む。そしていつもそれが自分に戻ってくるのを感じるんだ。この映画を作っている間、人生で最高の愛情を注ぎ込んだが、大きな試練だとも感じていた。観客の反応が僕の望んだものと違っていたらどうしよう。それを予測することはできないからね。最初の上映会で、観客を目の前にして、僕は具合が悪くなったよ。でも世界中で、観客の反応は素晴らしかった。コリンはヴェネチア映画祭で主演男優賞を受賞したし、コリンとジュリアンはふたりとも絶賛されている。反応が良くて、本当に嬉しい限りだ。

インタビュア:
まだ観ていない人たちには、この映画をどのように説明されますか?

監督:
とても普遍的なテーマをもつ映画だと思う。描かれる孤独は、我々全員が感じるものだ。それに高揚感のある映画だと思う。豊かな精神性がある。人生にとって何が大切なのか、そして人生の意味に感謝すること。我々が生きる一瞬一瞬に感謝し、人とのつながりに感謝する。そういう映画だ。

インタビュア:
人それぞれ原動力は違いますが、あなた自身にとって日々の原動力となるものは何ですか?

監督:
人とのつながりだね。西洋社会では、特にファッション界ではそうだが、物質に流されることが多い。僕たちは物質社会に生きる人間だから、物質主義は構わない。敬意をもって接している限りはね。でも人生で大切なのは、人とのつながりだと思う。僕たちが互いに通じ合うことができる瞬間なんだ。

インタビュア:
そのほかのキャラクターも素晴らしかったです。彼らは、ジョージの決断を遮るように現れてきます。彼が出会うキャラクターたちについて話していただけますか?

監督:
映画では、ある出来事から数ヶ月経って、ジョージが最後の日だと決めた日が描かれる。その日から、彼は本当に物を見始める。そのひとつが、人々の目なんだ。彼はそれまでとは違う人間になる。敏感になり、気づかなかった人に気づき始める。それは彼にとって最後の日だからなんだ。その結果、彼らのほうも彼に反応し、心を開いていく。最後の日に、彼は人々との素晴らしいつながりをもち、世界の美しさに気づいていく。映画の最後で、彼は本当に世界を理解するのだが、これ以上は言わないでおこう。

インタビュア:
映像の力についてお聞きします。それがキャラクターの感情のトーンを変化させます。

監督:
小説はモノローグで語られている。僕はジョージの感じていることを観客にも感じてもらう手助けをしなくてはならなかった。ひとつは音楽だ。音楽は感情に溢れ、雰囲気を変える力をもつ。同じシーンでも音楽が違うと、まったく別のシーンになる。もうひとつ使ったのは、色の変化だった。最初ジョージはものすごく落ち込んでいる。彼の世界には変化がない。彼は何も見ないし、色も感じない。でも彼が徐々に見始めると、雰囲気が変わり、物事はもっと鮮烈になっていく。すべてが細かく、色づいていくんだ。そして徐々に現実味を帯びてくる。映画の最後までに、彼の住む世界はテクニカラーになっていく。それは、彼の気持ちが高揚し、彼がまったく別の世界に生き始めたからなんだ。

インタビュア:
ありがとうございました。

映画化するに値する物語を探して帰り着いた小説

トム・フォードが監督デビューするという計画は、何年も前に持ち上がっていた。もともと熱烈なファンとして映画に精通していたし、スチール写真の撮影、広告キャンペーン、コマーシャルのクリエイティブ監督など過去25年間にわたるファッション業界での仕事は、映画制作に通じるものがあった。だが、語るに値する物語や観客へのメッセージがなければ、彼のイメージやスタイルが逆に映画を殺すこともあり得る。
3年前、監督デビュー作として最適な物語を探していたフォードは、1980年代にクリストファー・イシャーウッドの小説「A Single Man」に感動したことを思い出して再読、最初に読んだ時とは全く異なる感想を抱く。人間ならば誰しも感じる孤独とうまく折り合いをつけ、今を生きる大切さと、些細なことが本当は人生にとって大きなことなのだと理解させてくれる深く精神的な物語であることに気付いたのだ。

新しい設定を盛り込んで自ら書き上げた脚本

フォードは、小説と完全台本の両方の権利を得たが、すぐにそのどちらも彼が作りたかった映画にはならないことに気付く。そこでプロットを一から練り上げ、2年かけて自身で新しい脚本を書き上げた。フォードは原作のエッセンスを維持しつつ、主人公のジョージの1日に様々な出会いを付け加えた。さらに、過去にのみ生き、深い絶望感を振り払うことができないジョージが、1日の終わりに自殺を計画しているという新しいアングルを加えた。ジョージは、1日の終わりには世界を違う目で見始め、今を生きている自分を見出し、世界の美しさに直面する。フォードが書き加えたこの新たな設定によって、人生に与えられた贈り

物に感謝するという、今の時代にこそ大切でタイムリーなテーマが浮かび上がった。 また、ジョージはゲイだが、フォードはその点に重きは置いていない。死んだ相手がジョージの妻だったとしても、同じ物語になるように書き上げられた。これはラブストーリーであり、一人の男が人生の意味を探求する普遍的な物語なのだ。

主人公に投影された、誰も知らないフォードの一面

本作には、フォードの自伝的な要素が盛り込まれている。多くの人に訪れる中年期の精神的危機を、フォードも体験したのだ。若い頃に物質世界でかなり成功したフォードは、人生最高のパートナー、2匹の素晴らしい犬、そして多くの友人を手に入れたが、自分の道を見失ってしまったという。いつの間にか、どんな問題も物質で解決できると信じ、人生の精神面を完全におざなりにしてきた自分に気付いたのだ。 フォードは老子の内観法に似た哲学的な探求をすることで、自分自身を取り戻す。インドの伝統哲学を学んでいたイシャーウッドは、「A Single Man」で現代に生きる苦悩を描いている。この小説を読み返し

たフォードは、それが偽の自分について本当の自分が書いた小説だと感じたのだ。フォードは自分の性格の、ほとんどの人が知らないとても私的な一面をジョージの中に投影した。その結果、ファッションデザイナーとしての彼の作品しか知らない人々が、驚くような映画が完成したのだ。

特別な感受性が必要とされる主人公のキャスティング

フォードはジョージ役を演じられる感受性を持った俳優は、世界にほとんどいないと思っていた。そのため、ジョージ役のキャスティングは難航した。その貴重な一人だと信じるコリン・ファースが、スケジュール的に出演可能になったと知ったフォードは、すぐさまロンドンに飛んで彼を説得した。ほとんど顔も動かさず、セリフを言うこともなく、目だけで思っていることを伝えられるコリンの才能は、フォードを感服させた。 チャーリー役のジュリアン・ムーアの演技もフォードを驚かせた。彼女は「アクション」と声がかかるとすぐにイギリス英語になって、キャラクターに滑らかに入り込むことができる。チャーリーのキャラクターも

フォードの手によって、彼の女友達と祖母の集合体に書き変えられた。ジョージとチャーリーの過去も、フォードと女性たちの関係が盛り込まれたために原作とは違っている。 ケニーを演じたニコラス・ホルトは、撮影時はまだ18歳だったが、プロに徹するその真剣な演技で皆を魅了した。しかし、カメラの外では、18歳らしいユーモアあふれる愉快な青年で、現場を和ませていたという。

スクリーンの隅々まで計算し尽くし、こだわり抜いた世界観

LOCATION 〈ロケ地〉
撮影スタッフにとって一番難しかったのは、ロサンゼルスでロケ地を見つけ出すことだった。時代を正しく表す、完全に寂れた大学を見つける必要があったのだ。そしてやっと、パサディナのノートン・サイモン美術館の真向かいにある小さな学校が見つかった。フォードの要求を満たすジョージの家はさらに難しかった。イギリス人のジョージにふさわしい、モダンだがたくさんの木に囲まれた家が必要だった。さらにカメラを引いたら、彼の全世界が見える美しい建築的なショットが得られる家でなくてはならなかった。

COSTUME DESIGN 〈衣装〉
衣装を担当したアリアンヌ・フィリップスへのプレッシャーは大きかった。少ない時間と予算で、1960年代のファッションについて、完璧な時代考証が必要だったからだ。ファースとホルトの衣装だけは、フォード自身がデザインし、ミラノで作らせたものである。

CINEMATOGRAPHY 〈撮影〉
撮影が始まる数週間前まで、撮影監督は決まっていなかった。スタッフの一人がフォードにエドゥアルド・グラウのDVDを渡し、それを見たフォードが彼に即決する。28歳という若さだったが、素晴らしい目をもち、優れた技術的知識もあり、ヨーロッパ的な感性を気に入られ、大抜擢されたのだ。

COLOUR CONTROL 〈色調整〉
本作では、ジョージの心情を観客に伝えるのに、色使いが重要な役割

を果たしている。彼が最低の気分で目覚めた朝は、照明はフラットで、無彩色で表現されている。銀行でジョージが普段からイラついている隣家の少女に偶然出会い、可愛らしくて新鮮な美しさに溢れた彼女の本当の姿に気付いた時から、スクリーン上の色もテンションを上げていく。そして夕方になる頃、ジョージが人生の美しさに引き込まれ始めると、彼の住む世界は完全に鮮やかな色彩に変わっていく。

MUSIC 〈音楽〉
1960年代の映画を観ると、通常その時代に人気のある楽曲が使われているが、フォードにはそれが、少しわざとらしく感じられた。主人公の心の中を描く情感豊かな映画には、当時のヒット曲はふさわしくないと考えたフォードが最初に電話したのは、遠く離れた日本だった。ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』のテーマソングが気に入っていたフォードは、作曲を担当した梅林茂とコンタクトを取った。梅林は東京からロサンゼルスに飛び、本作をフォードと一緒に何度も繰り返して観た。梅林はこの映画のために3つのテーマを書いたが、それはまさにジョージの人柄と心の状態を捉えた旋律だった。

シングルマン コレクターズ・エディション Blu-ray

品 番 : BBXF-2010
発売日 : 2011/03/04
価 格 : 4,700円(税抜)
画 面 : 16:9(スコープサイズ) 1080p High Definition
仕 様 : カラー / 101分 / 2層 / 1枚組
字 幕 : 1.日本語字幕
2.日本語手書き風字幕
3.日本語字幕(吹替用)
4.日本語字幕(コメンタリー用)
音 声 : 1.英語ドルビーデジタルTrueHD5.1chサラウンド
2.日本語ドルビーデジタルTrueHD 2.0chステレオ(吹替用)
3.英語ドルビーデジタル2.0chステレオ
(オーディオ・コメンタリー用)
製作国 : アメリカ
製作年 : 2009

特典

【初回生産限定特典】
○豪華アウターケース&デジパック仕様、ブックレット封入

【音声特典】
○オーディオ・コメンタリー(トム・フォード)

【映像特典】(合計約50分)
○メイキング・オブ・シングルマン
○インタビュー集 <トム・フォード / コリン・ファース / ジュリアン・ムーア / ニコラス・フォルト>
○予告編集 <オリジナル予告編/日本版予告編>
○デジタル・フォトギャラリー
○キャスト・スタッフプロフィール(静止画)

シングルマン コレクターズ・エディション DVD

品 番 : BBBF-8670
発売日 : 2011/03/04
価 格 : 3,800円(税抜)
画 面 : 16:9LBスコープサイズ
仕 様 : カラー / 101分 / 片面2層 / 1枚組
字 幕 : 1.日本語字幕
2.日本語字幕(吹替用)
3.日本語字幕(コメンタリー用)
音 声 : 1.英語ドルビーデジタル5.1chサラウンド
2.日本語ドルビーデジタル2.0chステレオ(吹替)
3.英語ドルビーデジタル2.0chステレオ
(オーディオ・コメンタリー)
製作国 : アメリカ
製作年 : 2009

特典

【初回生産限定特典】
○豪華アウターケース&デジパック仕様、ブックレット封入

【音声特典】
○オーディオ・コメンタリー(トム・フォード)

【映像特典】(合計約50分)
○メイキング・オブ・シングルマン
○インタビュー集 <トム・フォード / コリン・ファース / ジュリアン・ムーア / ニコラス・フォルト>
○予告編集 <オリジナル予告編/日本版予告編>
○デジタル・フォトギャラリー
○キャスト・スタッフプロフィール(静止画)