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冷たい熱帯魚

その後、続々と世界の映画祭でも熱狂的な支持で迎えられ、今や北野武、三池崇史等に続く世界の映画ファンが注目している日本人監督のひとりとなった、園子温。新作『冷たい熱帯魚』はいままでの園作品で脈々と受け継がれ、創造されてきた圧倒的な映像と世界観が、更に昇華を遂げた作品である。

国内外で高い評価の『愛のむきだし』を園子温の世界の<陽>とするならば『冷たい熱帯魚』はまさに<陰>。
この2作品を観て初めて園ワールドの完成形が堪能できるといってもよい作品といえるだろう。
本作は監督の実体験と、1993年の埼玉の愛犬家殺人事件や他の猟奇殺人事件からインスパイアされて生み出された物語。

家庭不和を抱えつつ、小さな熱帯魚屋を営む主人公・社本が、同業者で人の良さそうな村田と出会ったことで、想像を絶する破滅の世界へ導かれていく衝撃の作品である。しかし本作は単なる猟奇殺人事件を映画化している作品ではない。誰しもが出来るだけ触れずに生きていたいと願う<死>や<暴力>に対する恐れ、しかし遅かれ早かれ<死>は平等に訪れ、残念ながらこの世界はそういう<死>と<暴力>に満ちているというメッセージを、ダーク・ファンタジーの世界で形成させながら、これでもかと我々に突き付けてくる。映し出されるその世界は観る者によって悲劇とも、喜劇とも映る。

想像を絶する世界を体験する主人公・社本を、数多くのテレビや映画に出演し、ソロパフォーマーとしても活躍している吹越満が、現代の病んだ人間の苦悩を余すことなきエネルギーで熱演。そして社本を絶望へと引きずり込む<モンスター>村田を演じるは、役者としてテレビ・映画と幅広いフィールドで活躍し、普段は人の良い役を多く演じてきたでんでんが、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター、『ノーカントリー』のアントン・シガー、『ダークナイト』のジョーカーなどの数多ある鮮烈な殺人鬼と引けを取らない新たな<ジャパニーズ・モンスター>村田を怪演。村田の妻・愛子を演じるのは『六月の蛇』で数多くの賞に輝き、本作でもその存在を如何となく発揮している黒沢あすか。社本の妻・妙子にグラビア等で活躍した後、近年本格的に女優として活動している神楽坂恵が妖艶にして危うげな女性を演じている。

また、社本の娘・美津子を『パークアンドラブホテル』の新星・梶原ひかり、村田の顧問弁護士・筒井を名バイプレーヤー、渡辺哲が演じ、本作を不穏な緊張感で取り囲んでいる。スタッフも美術の松塚隆史、編集の伊藤潤一、音楽の原田智英など園子温の世界に必要不可欠な人材が結集。
共同脚本には映画雑誌『映画秘宝』のアートディレクターやライターとして活躍し、本作品の宣伝デザインも担当している高橋ヨシキが参加している。

本作はその衝撃度からR-18指定ではあるが、逆に18歳以上だからこそ観ることが出来る『真の大人の映画』であり、久しく日本映画が忘れかけていた映画愛がここにある。
監督自ら最高傑作と称しているこの猛毒エンターテインメント。観る者がどのように受け止めるか?是か非か?

2009年1月19日月曜日午後9時11分−−どしゃぶりの雨の中を一台の車が走っていた。

車内には、小さな熱帯魚屋を経営する社本信行(吹越満)とその妻、妙子(神楽坂恵)の2人。娘の美津子(梶原ひかり)がスーパーマーケットで万引きしたため、店に呼び出されたのだ。その場を救ってくれたのは、スーパーの店長と知り合いの男、村田幸雄(でんでん)。村田は同業の巨大熱帯魚屋、アマゾンゴールドのオーナーだった。

帰り道、強引に誘われ、村田の店へと寄る3人。そこには村田の妻・愛子(黒沢あすか)がいた。
村田は言った。

翌朝、アマゾンゴールドには女子従業員たちに交じっている美津子の姿があった。

継母である妙子が嫌いだった美津子は、素直に住み込みで働く“新生活”を受け入れていた。

無力なのは社本だ。恩人である村田の、強引さに引っ張られるばかりで、為す術がない。そして彼はアマゾンゴールドの裏側で、恐るべき事態が進行していることを、まだ知らなかった。

数日後、村田に“儲け話”をもちかけられ、呼び出された社本。そこには顧問弁護士だという筒井(渡辺哲)と、投資者のひとり、吉田(諏訪太朗)がいた。門外漢の高級魚のビジネス話に、大金融資を逡巡していた吉田だったが、堅実そうな社本の存在も手伝い、契約書に押印−−。

直後、吉田は殺される。愛子が飲ませたビタミン剤には毒が入っていたのだ。

社本を前に、吠える村田。

豹変した村田と愛子命じられるまま、社本は遺体を乗せた車を運転した。

辿り着いたのは山奥にある怪しげな古小屋。
その風呂場に運んだ死体の解剖作業を慣れた手つきでやってのけたのは、村田と愛子だ。

細切れにされた肉と内臓が詰められたビニール袋と、骨の灰、何も知らない妙子と美津子を人質にとられた社本は、それらの処分に加担することになる。

村田の暴走と共に、地獄を体験してゆく社本。しかし、追いつめられた社本がついに、思いも寄らぬ反撃に出る!

脚本を頂いた時は、周りのスタッフは強烈過ぎる役でかなり困惑していましたが、自分は直感的にやりたいと思いお引き受けしました。さらに村田役がでんでんさんだと聞いたとき、この自分の直感が確信に変わりました。これは絶対凄くて面白い作品になると思っていました。ヴェネチア映画祭での上映後、自分の部屋に戻って飲んだビールが最高に美味しかったことは確かです。

1965年2月17日生まれ、青森県出身。84年劇団ワハハ本舗に参加。99年、退団。90年の『つぐみ』(市川準監督)を始め、主な出演作には『SFサムライ・フィクション』(98/中野裕之監督)、『たそがれ清兵衛』(02/山田洋次監督)、『LIMIT OF LOVE 海猿』(06/羽住英一郎監督)、『BALLAD 名もなき恋のうた』(09/山崎貴監督)など。園組へは09年『愛のむきだし』、『ちゃんと伝える』に参加。また、「殴る女」(99/CX)、「どんど晴れ」(07/NHK)、「警視庁捜査一課9係」シリーズ(ANB)、「同窓会 ラブ・アゲイン症候群」(10/ANB)、現在放送中の「デカワンコ」(NTV)など、TVドラマでも活躍。また、89年から続けている「フキコシ・ソロ・アクトライブ」では実験的な演芸に挑み続けるソロパフォーマーでもある。

普段、自分のキャラクター的に、「おひとよしの八百屋のおやじ」役などのオファーであるとかそういった役しか演じてきませんでしたが、実は自分の性格はそんな良い人間ではないんですよね。そんな中この極悪正直の村田の役を頂いた時は、正直どうこの悪を演じてやろうかと撮影前から胸がわくわくしました。この作品はこれからの自分の自信になっていくと確信しています。

1950年1月23日生まれ、福岡県出身。81年、森田芳光監督『の・ようなもの』で映画デビュー。その後、独特な存在感と味わい深い演技で映画、TVドラマ、舞台、CMなど、幅広く活躍。主な映画出演作は、『雪に願うこと』(06/根津吉太郎監督)、『クライマーズ・ハイ』(08/原田眞人監督)、『母べえ』(08/山田洋次監督)など。特に10年は『ゴールデン・スランバー』(中村義洋監督)、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(三浦大輔監督)、『イエローキッド』(真利子哲也監督)、『座頭市 THE LAST』(阪本順治監督)、『孤高のメス』(成島出監督)、『悪人』(李相日監督)、『SP 野望篇』(波多野貴文監督)など、出演作が多数公開されている。園組へは『ちゃんと伝える』(09)に参加し、2作目の本作で自身初の本格的な悪役を演じた。

“愛子”としてどう生きていられるか、その事だけを考え、全身全霊でこの役に挑みました。実生活では3人の子どもの母として幸福ですが、不思議なもので、幸せであればあるほど、この世界で描かれている人間の残虐性や狂気の世界に魅かれている自分がいました。30代も終わりに近づき、何かを残したいと思っていた時に、この作品に出会えて本当に嬉しいです。監督に出会えて、とても感謝しています。出会うべきタイミングで出会ったという感じでしょうか。

1971年12月22日生まれ、神奈川県出身。子役からスタートし、テレビドラマを始め、数々の映画作品に出演。特に、塚本晋也監督『六月の蛇』(03)でオボルト国際映画祭最優秀主演女優賞を獲得し、国内外で高い評価を得た。ほか、『愛について、東京』(93/柳町光男監督)、『現代任侠伝』(97/降旗康男監督)、『サンクチュアリ』(06/瀬々敏久監督)、『嫌われ松子の一生』(06/中島哲也監督)、『女の子ものがたり』(09/森岡利行監督)など。

妙子の役を頂き、緊張の中、「あなたを選んだのはこちらで、責任はこちらにある。あなたは自信を持って、自由に自分を表現すれば良い。」と、監督やスタッフに声をかけて頂きました。共演者の方々にも支えられ、私は妙子になりました。この状況を変えたいと思いつつ、どうすることも出来ない生活を送る中、一筋の光に縋り付く。強い方へと惹かれて行く妙子は、とても素直な人だと思います。一所懸命生きているかを考えさせて頂いた、生涯忘れられない作品です。

1981年9月28日生まれ、岡山県出身。04年グラビアアイドルとしてデビューし、07年に自信の著書を通じてアイドル活動を卒業。本格的に女優としての活動を始める。『遠くの空へ消えた』(07/行定勲監督)、『プライド』(09/金子修介監督)、『童貞放浪記』(09/小沼雄一監督)、『13人の刺客』(10/三池崇史監督)、TVドラマ「嬢王3〜Special Edit」(10/TX)などに出演。11年1月にはシアターXにて高瀬一樹演出『セレブレーション』で初舞台。女優として活動の場を広げている。

この作品で演じさせていただいた美津子は、両親に反発しながらも、必死に愛を求めている思春期の女の子です。私自身に反抗期はなかったのですが、美津子を演じていて不安や悩みはあまりありませんでした。園監督をはじめ、たくさんのベテラン俳優さんやスタッフさんに囲まれて、常に緊張感と安心感をもって撮影していました。物語は残酷ですが、現場にはたくさんの愛が詰まっていたので、いろんなメッセージを受け取っていただければと思います。

1992年12月21日生まれ、東京都出身。子役としてデビューし、TVドラマ「転がしお銀」(03/NHK)、「女王の教室」(05/NTV)、「演歌の女王」(07/NTV)、「セクシーボイスアンドロボ」(07/NTV)、「学校じゃ教えられない」(08/NTV)、「バッテリー」(08/NHK)、映画『仮面ライダー剣 MISSING ACE』(04/石田秀範監督)などに出演。また、熊坂出監督『パークアンドラブホテル』(07)での演技で注目を集めた。

本当に楽しくて面白い監督でした。本編ではないですが、頭の中をかち割ってどうなっているか調べたくて仕方がなくなる監督です。自分のやりたいこと、表現したいことに素直にぶつかって突き進んでいく姿は、映画を本当に愛しているんだなぁと教えてくれました。監督の愛がいっぱい詰まった『冷たい熱帯魚』。この偉大な喜劇を、是非お楽しみください。

1950年3月11日生まれ、愛知県出身。73年、「シェイクスピアシアター」創立に参加。黒澤明監督『乱』(85)で映画デビュー。ほか、伊丹十三監督『ミンボーの女』(92)、北野武監督『HANA-BI』(97)など出演作多数。また、個性的な演技でドラマ、CM、舞台など多岐に渡る活動を展開。近年は『インスタント沼』(09/三木聡監督)、『RAILWAYS』(10/錦織良成監督)など、今後を期待される若手監督作品にも精力的に参加している。

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1987年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。ぴあスカラシップ作品として制作された『自転車吐息』(90)は、ベルリン映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映。以後、『自殺サークル』(02)、『奇妙なサーカス』(05)、『夢の中へ』(05)、『紀子の食卓』(06)、『HAZARD』(06)、『エクステ』(07)、『ちゃんと伝える』(09)など衝撃作を続々と誕生させ、各国での受賞作多数。09年『愛のむきだし』で、第59回ベルリン映画祭『カリガリ賞』『国際批評家連盟賞』、第9回東京フィルメックス「アニエスベー.・アワード」を受賞した。青春物からホラー、詩や小説と自在なスタイルで活躍する日本映画界の異端児である。

−−本作は、90年代半ばに起きた“埼玉愛犬家連続殺人事件”をヒントにしていますが、映画化までの経緯というのは?
園 10年ほど前に、事件関係者による本が出版されて、当時「映画にしたら面白いな」と思っていたんだけど、それから随分と年月が経って、そんな気持ちをすっかり忘れ去っていた頃に、千葉(善紀)プロデューサーから「園さん、この題材やりたいって言ってたよね」って声をかけられたんです。いざ、映画化しようと考えたら、「これはけっこう脚色しないと成立しないんじゃないか」と悩みましたね。主役の社本を家族持ちにし、“娘を人質にとられているから共犯者にならざるを得なかった”といった絶対条件を作ったり、いろいろと手を加え、最後はかなり派手な、飛躍した結末になってしまいました。

−−では、ほぼオリジナルと言ってもよい?
園 そうですね。他にも様々な実録事件を参考にしつつ。僕、詐欺師にお金を盗られたことがあるんですけど、村田が社本を騙していくあたりは、そのときのことを思い出しながら脚本を書きました。見事に、甘い言葉にノせられちゃったんですよ(笑)。

−−より面白く、より映画的にした結果が、本作なわけですね。
園 事実は小説より奇なり、と言うけれども、意外と事実を映画化すると地味なケースって多いんですよ。この映画のベースになった事件も、人を殺した数は多いものの、犯人はわりかし地道に生きていた印象があって。なので全ての殺人を1週間ほどの期間に詰め込み、「そこまでハイペースに人を殺してたら普通とっくに発覚するぞ」ってくらいに圧縮して描きました(笑)。コーエン兄弟の一見地味な映画、『ファーゴ』(96)だって何日間かで数人が死んでますからね。あれでも地味に見えるんだから、やっぱり派手にやらないと。

−−初期設定がペットショップから熱帯魚店に変わり、室内の、水槽を通した幻惑的な色彩も印象に残りました。
園 いや、あれね、ひどいんですよ。ある日ミーティングに呼ばれて行ったら、いきなり千葉プロデューサーに「愛犬家の企画、あれ、熱帯魚になったから」って。もう降りようかと思った(笑)。知らない間に熱帯魚店で脚本が進んでいて、最初はすごいガッカリしましたよ。だって犬には獣性の匂いがあるけれど、熱帯魚にはそれがないじゃないですか!でも徐々に熱帯魚には熱帯魚のメタファーが感じられてきて、最終的には良かったですね。逆に、犬を使っていたら、もっと大変な撮影になっていたと思う。

−−ヴェネチア国際映画祭での公式記者会見で、園監督は本作について「ファンタジー作品です」という言い方もされていましたが。
園 昨今、癒しだったり、いわゆる人生の応援歌みたいな映画が多すぎるでしょ。日本映画は特にそう。僕は「応援なんかされたくない」って常に思っています。むしろ必要な映画は、とことんまで落としてくれる映画。そのほうが100倍元気が出る。それがまあ、僕にとってのファンタジーですね。

−−なるほど、撮影時は、個人的な思いを作品に反映されたそうですね。
園 死んでもいいくらい落ち込んでいる時期に作っていたので、徹底的に暗い映画にしようって。『アンチクライスト』(09/日本では2011年2月公開)を作ったラース・フォン・トリアー監督が「絶望していた自分を癒すためだけに作った」と語っていて、撮る前に、その言葉も僕の背中を押してくれた。結果、けっこう癒されましたね。ラクになりましたよ。絶望を主人公に全部背負ってもらったので。ということは、これは癒しの映画であり応援歌でもあるという……僕も最近のフォーマットにのっとった映画を作ってしまいました(笑)。

−−またまたご冗談を(笑)。キャスティングについてお訊きします。悪の権化、村田役のでんでんさん、圧巻でした!
園 以前、『ちゃんと伝える』(09)で国語の先生を演じてもらったときから、「悪役をやらせてみたいなあ」と思っていたんです。

−−スタンダップ・コメディアン時代、漫談のツカミは「よお、みんな、ハッピーかい?」という決め台詞でしたが、やはり、でんでんさんが醸し出すブラックジョーク的な要素を考えての配役ですか。
園 ええ。普通の役者がやると、凄みばかりが出て、ああは軽くはならない。でんでんさんみたいな、ユーモラスな味わいを持たれた方がやったほうが村田のキャラクターに幅が出るだろうと。ヴェネチアでは「自分の中の悪に目覚めた。これを機にこういう役が増えたらいいな」っておっしゃってましたけど、まだまだ別の側面を内包されている俳優さんです。

−−対する社本役の吹越さんは?
園 実は、下北沢の喫茶店でキャスティングの打ち合わせをしていて、社本役に吹越さんを想定し、そんな話をしていたら、ちょうど吹越さんが偶然、店に入って来られたんです。すかさず「スケジュール、空いてますか?」って(笑)。その場でOKしてくれましたが、後で主役と知って驚かれたらしい。

−−この映画に呼ばれてしまったんですね(笑)。
園 そういうことにしておきましょう。

−−線が細くて被虐的。しかしそれがある局面でまさかの方向に裏返る……ピッタリでした。
園 寡黙で表情の読めない方。ある種“魚的な人”なんですよね。吹越さんは。

−−お二人に何かサジェスチョンしたことは?
園 吹越さんには特に何も。でんでんさんにはとにかく、マシンガントークというか、「ジョー・ペシのように台詞を畳みかけて言って下さい」と。最初、ちょっと台詞に間があったので。

−−『グッド・フェローズ』(90)や『カジノ』(95)などマーティン・スコセッシ監督と組んだときのジョー・ペシですね。本作はサム・ペキンバー監督の『わらの犬』(71)を彷彿とさせるところもあります。吹越さんなんて和製ダスティン・ホフマンですよ。
園 言われてみれば……でも意識はしていませんでした。前半はわりと実話と同じなんですよ。で、社本が村田にやられ放しで終わるのはイヤだったので、復讐をさせなきゃダメだなって。

−−復讐といえば、役者さんたちには事前に、今村昌平監督の『復讐するは我にあり』(79)を観てもらったそうですね。
園 ああいうヘヴィーな感じのテイストにしたくって。でも毎回、どの映画の時でもたいてい『復讐するは我にあり』は観てもらっているので、僕の中ではもはやバイブル化しています。

−−村田の手にかかる男たち……諏訪太朗さん、渡辺哲さんも相変わらず、イイ味を出されていました!
園 諏訪さんと哲さん、でんでんさんと吹越さん、4人が並んでいる図柄は今回、最高に気に入っています。日本映画で久しぶりに、加齢臭の漂う、だからこそ説得力のあるカッコいいシーンになったなと自負しています。スクリーンの中の役者の平均年齢がどんどん下がりつつあるので、僕ひとりだけでもどんどん上げていかないとね。

−−ある種、日本映画のバイプレーヤー四天王の競演でした。さて、驚異の女優陣についてもお訊きします。黒沢あすかさんは、村田以上にぶっ飛んだ“怪物”ぶりでした。
園 トンデモない役を大胆にやってくれましたね。オーディションで候補者の女優さんに何人かお会いしたんですが、審査のポイントとして『現場で腰を抜かし、演技が出来なくなると困る』というのがあって、あすかさんの“覚悟”がダントツで際立っていたのでお願いしました。

−−確かに、“覚悟”がなければ、あそこまではできない。それにしても、黒沢さん……エロかったです。
園 あすかさんがいつも肌を露出気味なのは、僕がポール・バーホーベン師匠から学んだ鉄則のひとつです(笑)。スタッフのみんなにも『やりすぎじゃないですか』って言われるような服を着てもらいました。

−−終盤の風呂場前で吹越さんとの修羅場、二人が血で滑って往生するシークエンスは、いわば古典ですね。近松門左衛門の『女殺し油地獄』のような。
園 あれ、台本には書いてなくて、現場で作っちゃったんですよ。助監督が撮影スケジュールの段取りを間違えて、吹越さんのシャツの血の汚れ具合を先に決めなきゃならなくて、思案した末に『全部真っ赤にしちゃえ』って。当初、台本上ではマリア像で叩いて殺すだけだったんですが、それではシャツは真っ赤にはならない。辻褄を合わせるために床を全部血で染め、二人が転がるあのシーンが生まれたんです。後づけでしたが、けっこういい案配に転がりましたね。助監督の失敗した段取りのおかげですよ(笑)。

−−園さんらしい臨機応変さですね。社本の妻役の神楽坂恵さんは?
園 神楽坂さんにも“バーホーベンの教え”を守ってもらってます(笑)。どんなときでもパイチラが見えるように。彼女には相当特訓をしましたね。地獄のリハーサルを経て、生まれ変わりました。

−−ラストは、娘役の梶原ひかりさんが“場”をさらっていきます。
園 スタッフには最後、吹越さんが車に乗って、マカロニ・ウエスタンっぽくどこかに男らしく去って行ってほしかった、なんて言われてたんだけど、そうは世の中いかないでしょう。そうしたら僕の鬱がもっと酷くなっちゃってただろうし(笑)。僕の精神を癒すためにも、ここは娘にむっちゃくちゃ蹴られまくっているほうがいいんだって。

−−男ではなく、その娘が“人生の痛み”を知り、ひとり、何処へと去って行く……。
園 ああいうたくましい女は、どこに行っても生き残れると思いますけどね。

−−梶原ひかりさんは、女優としては?
園 ビッチな役なんで、なかなか感情の機微を出せるシーンがなく、最後くらいしか“芝居どころ”がなかったんじゃないかな。父親を蹴りながら笑い、でもちょっと哀しみも湛えているニュアンスを懸命に出してくれて、素質あるなって思いました。まだ若いですからね。20歳過ぎたらまたご一緒したいです。

−−タイトルはこれ、英語だと“コールド・フィッシュ”になるんですね。「冷たい熱帯魚」というのはどのように付けられたんですか?
園 ジョン・レノンに「コールド・ターキー」って歌があって、ならば「コールド・フィッシュ」もありかなと。そんな単純な発想ですね。で、調べてみたら“冷淡な人”って意味があるらしく、これはピッタリだなって。Winkの「淋しい熱帯魚」とは何の関係もありませんよ(笑)。『自転車吐息』(90)を作ったときは、「タイトルの元ネタは高橋真梨子の「桃色吐息」なんですか」ってよく言われたなあ。

−−(笑)。劇中、しばしばタイムコードが出ますが、あれは?
園 インスパイアされたのはウィリアム・フリードキン監督の『L.A. 大捜査線 狼たちの街』(85)。あの映画で時折挟まれていたタイムコードがカッコ良かったんですよねえ。

−−プラネタリウムを媒介にしたエピソードの数々も、切なかったです。
園 村田役のでんでんさんに言わせたかったんです。「お前の言ってる地球は、丸くてつるつるして青いんだろう。俺の考える地球はよ、ただの岩だ。ごつごつガタガタした岩の塊だ!」って。主人公の夢見がちなところは全部ぶっ壊してやろうと思いました。

−−『愛のむきだし』(09)では、ゆらゆら帝国、ベートーヴェン交響曲第7番イ長調第2楽章、ラヴェルの「ボレロ」などが画面を効果的に彩っていましたが、本作では、マーラーの交響曲第1番ニ長調「巨人」の第3楽章が“主調音”になっていました。
園 あと、冗談っぽい「スケーターズワルツ」とかね。劇中用の音楽も原田(智英)君と2、3曲作りました。効果音は編集しながら入れていっちゃうんです。『死刑台のエレベーター』(58)でラッシュを観ながらトランペットを吹いたマイルス・デイヴィスみたいに即興的に。ここで“ドンドンドン”ってビートを入れようとか。途中から編集の伊藤(潤一)君もノってきちゃって、編集そっちのけで音作りに参加してくれましたね。

−−では、ズバリ、この映画で目指した地点とは?
園 今回は“徹底的に救われない家族”を描いてみました。何にでも希望を持たすのはイカンと思うんですよ。ダメなものはダメだと。そのくらい徹底したほうが活力になる。僕のもうひとつのバイブル映画に『県警対組織暴力』(75)があって、深作欣二監督の作品の中でも特に好きな1本なんですが、あんな風にブラックな人間洞察に満ちた、どこまでも希望がないんだけど、でも観たあとにスッキリする映画を僕も作りたいんですよね。『上半身が深作欣二、下半身がポール・バーホーベンのような映画になったらいいなあ』と夢想しながら撮影に挑みました。

−−劇中、村田が吐く「ボディを透明にする」という台詞なんて、まさにブラック!
園 あれは、実際の事件で使われたものなんですが、長嶋茂雄の「わが巨人軍は永久に不滅です」にも並ぶ名台詞ですよ(笑)。

品番 BBXN-1047
発売日 2011/08/02
価格 5,700円(税抜)
画面 16:9ビスタサイズ
音声
1.オリジナル日本語ドルビーTrueHD5.1chサラウンド
2.日本語ドルビーデジタル2.0chステレオ(オーディオコメンタリー)
公開日 2011年01月公開
製作国 日本 製作年 2010

映像特典(約108分)
●『冷たい熱帯魚』の熱き現場 ~メイキング映像&インタビュー~
●園子温独白 クランクアップ前の記録
●予告篇集【劇場予告/海外版予告/キャラ別予告/幻の超過激予告】
●公開までの軌跡~ヴェネチア映画祭~東京フィルメックス~初日舞台挨拶
●三池崇史監督presents園子温監督&吹越満「冷たい熱帯魚」トークショー
●「冷たい熱帯魚」のその先へー。園子温 新作「恋の罪」特別映像
●キャスト&スタッフ プロフィール(静止画)

音声特典
●猛毒コメンタリー (園子温×吹越満×でんでん×高橋ヨシキ)

【初回生産特典】
■豪華アウターケース
■『冷たい熱帯魚』スピン・オフ・グラフィック・ノベル<DEAD FISH’S EYE>
原作:高橋ヨシキ 画:ヒロモト森一

商品詳細

品番 BBBN-1048
発売日 2011/08/02
価格 4,700円(税抜)
画面 16:9LBビスタサイズ
音声
1.オリジナル日本語ドルビーデジタル5.1chサラウンド
2.日本語ドルビーデジタル2.0chステレオ(オーディオコメンタリー)
公開日 2011年01月公開
製作国 日本 製作年 2010

【特典】※予定
映像特典(約108分)
●『冷たい熱帯魚』の熱き現場 ~メイキング映像&インタビュー~
●園子温独白 クランクアップ前の記録
●予告篇集【劇場予告/海外版予告/キャラ別予告/幻の超過激予告】
●公開までの軌跡~ヴェネチア映画祭~東京フィルメックス~初日舞台挨拶
●三池崇史監督presents園子温監督&吹越満「冷たい熱帯魚」トークショー
●「冷たい熱帯魚」のその先へー。園子温 新作「恋の罪」特別映像
●キャスト&スタッフ プロフィール(静止画)

音声特典
●猛毒コメンタリー (園子温×吹越満×でんでん×高橋ヨシキ)

【初回生産特典】
■豪華アウターケース
■『冷たい熱帯魚』スピン・オフ・グラフィック・ノベル <DEAD FISH’S EYE>
原作:高橋ヨシキ 画:ヒロモト森一

商品詳細