スクリーン・インターナショナル、カイエ・デュ・シネマ、サイト&サウンドといった各国の有力誌がこぞって2016年の映画ベスト1に選んだのは、『ムーンライト』や『ラ・ラ・ランド』でもなく、『ありがとう、トニ・エルドマン』だった。
ワールドプレミアとなったカンヌ国際映画祭で公式上映されるや、カンヌは本作の話題で持ちきりとなった。スクリーン・インターナショナルの星取りでは、歴代最高得点3.7(4.0満点)を獲得。主要賞は逃したものの「観客と批評家にとってのパルムドール」と言わしめ、マスコミから絶賛された。既に公開されたドイツ、フランスでは異例の大ヒットを記録し、アカデミー賞ノミネートをはじめ、全米、ニューヨーク、ロンドンなどの映画批評家協会賞の外国語映画賞を受賞。ヨーロッパ映画賞では作品賞、監督賞、男優賞、女優賞、脚本賞と主要賞を総なめ! 世界の映画祭、映画賞を席巻している。
アメリカ公開の際に、本作を観て、惚れ込んだジャック・ニコルソンが、ハリウッド・リメイクを熱望! 引退表明していたにも関わらず、撤回しリメイク版で自ら父親役を演じるという。『ありがとう、トニ・エルドマン』はアカデミー賞の常連である大物俳優の心をも鷲掴みにした。

悪ふざけが大好きな父・ヴィンフリートとコンサルタント会社で働く娘・イネス。性格も正反対なふたりの関係はあまり上手くいっていない。たまに会っても、イネスは仕事の電話ばかりして、ろくに話すこともできない。そんな娘を心配したヴィンフリートは、愛犬の死をきっかけに、彼女が働くブカレストへ。父の突然の訪問に驚くイネス。ぎくしゃくしながらも何とか数日間を一緒に過ごし、父はドイツに帰って行った。ホッとしたのも束の間、彼女のもとに、<トニ・エルドマン>という別人になった父が現れる。職場、レストラン、パーティー会場──神出鬼没のトニ・エルドマンの行動にイネスのイライラもつのる。しかし、ふたりが衝突すればするほど、ふたりの仲は縮まっていく…。
心配するあまり娘に構う父と、そんな父の行動にうっとうしさを感じる娘。互いに思い合っているにも関わらず、今ひとつ噛み合わない父と娘の普遍的な関係を、温かさと冷静な視線をあわせ持った絶妙のユーモアで描く。その一筋縄ではいかないオリジナリティ溢れるストーリーは、トニ・エルドマンの登場から加速していく。ホイットニー・ヒューストンの「GREATEST LOVE OF ALL」、誕生日パーティー、毛むくじゃらのクケリ──観る者の予測を超える不意打ちの連続。そこから浮かび上がる父と娘の真実の愛に、世界が絶賛! 涙し笑った。

悪ふざけが大好きなヴィンフリートは、今日も存在しない架空の弟“トニ”になりきって変装をし、荷物を届けに来た配達員を驚かせては、静かに喜んでいる。

しかし、最近はなんだか浮かないことが多い。ピアノ教室の生徒からは辞めたいと告げられ、年老いた母も、いつも一緒にいる老犬ヴィリーもなんだか元気がない。コンサルタント会社で働く娘イネスは、勤務地のブカレストから久しぶりに帰ってきたが、仕事に追われて携帯で電話ばかりしている…。

「ヴィリー、自分の寝床で寝たらどうだ?」心の支えだった愛犬が、庭で静かに息を引き取っていた。

「遊びに来たよ」ヴィンフリートは、イネスを驚かそうと、連絡もせず、彼女が働くブカレストの会社を訪れた。
しかし、大手石油企業の契約延長がかかった重要なプロジェクトに関わっているイネスは、“上海支社への転勤”という夢を叶えるためにいつにもまして忙しく、遥々きた父になかなか構っていられない。
「伝言です。今夜、アメリカ大使館のレセプションに行かないか、と」助手のアンカが電話越しのイネスの言葉を伝える。

財界人が集まるレセプション。ラフな格好で居心地が悪そうなヴィンフリート。
「父親だってことは知られてもいい。客の取締役に誘われたら私がひとりでお供するわ。上客なの」
父にビュッフェを案内すると、スーツ姿のイネスは意気込んで取引先の役員に話しかけにいく。しかし、同席していた妻の相手を任されて話をはぐらかされ、翌日のショッピングの約束をする羽目になってしまった。
「一杯どうです? お父さんも一緒に」気を落としていると帰りがけに誘われ、ヴィンフリートも思いがけず同席することになった。難しいビジネス用語が飛び交う会話。ふとしたひと言で、イネスは役員の機嫌を損ねてしまう。「何の話だったんだ」ヴィンフリートは、落ち込む娘を心配そうに見つめる。
帰宅後。誕生日の前祝にと、ヴィンフリートはイネスにプレゼントを渡す。喜ぶイネスだったが、何故だか少し疲れた表情の父を見て、ふと、いつも一緒にいる愛犬の様子を聞く。「ヴィリーは預けたの?」「──死んだよ」驚きの表情を浮かべ、早く連絡してくれればと言うイネス。
「電話をかけそびれたんだ。ソーセージを切ろう」ヴィンフリートは、話を切り上げて台所へ。

スパでマッサージをしていたイネスが戻ってくる。「途中でやめた。あれで100ユーロだなんて」
追いかけて謝罪する店員に、自分の会社は得意先だからと、飲み物や食べ物を次々注文するイネス。
ヴィンフリートは「ここにいて幸せか?」そんな姿に思わず問いかける。しかしそれも束の間、取引先の妻から電話で呼び出され、イネスは買い物に行ってしまう。ショッピングモールに残されたヴィンフリートは、やることもなくひとりスケートリンクを静かに見つめる。

帰宅してからもパソコンに向かうイネス。「夜も夫妻を案内するの。その前に、ひと眠りするわ」
朝。ヴィンフリートは、ドイツに帰る前にイネスを起こしに行く。「今何時!? 最悪! 4回も着信が! プレゼンは月曜日よ。顧客との約束をすっぽかしちゃったわ! なぜ起こしてくれないの?」泣きながら暴れるイネス。「ほっとけないよ」「…心配しないで」名残惜しそうにタクシーに乗り込んでいく父。イネスは、何故だか溢れてくる涙をぬぐいながら見送った。

「ただしこれは、ブザウ油田との協力関係が前提です──」
プレゼン当日。イネスは案件が難航していると、直前で案を練り直して臨んだ。「打ち合わせと違うぞ。でもまぁいい。それ以外はよくやった。」案件は検討に持ち越された。

レストランで、ステフ、タチアナと女子会をするイネス。
「──中国語を5時間聞かされた」「──食事もまずくて子供たちも家に帰りたがる始末よ」
それぞれの週末の悲惨な話が飛び出すと、イネスは堰を切ったように「私の週末も人生で最悪だった。父がなんの連絡もなく突然ひょっこり現れたのよ」と一気に話す。
すると、突然背後から「ご婦人たち、シャンパンはいかが?」ダサいスーツに、長髪のカツラ、出っ歯の入れ歯をした父・ヴィンフリートが現れる。動揺するイネスに向かい「私はトニ・エルドマンです。はじめまして」と挨拶をする。コンサルティングと人生についてのコーチングをしているビジネスマンだという彼は、一通り会話を楽しむとリムジンに乗って夜の街へと去って行った。

それから、前触れもなくイネスの前に“トニ・エルドマン”は度々現れた。
上司と意見が食い違い、会社の屋上で言い争いをしているときにブーブークッションの強烈な音と共に後ろから現れた。あるときは、職場の彼氏も同席しているパーティーに現れ、挨拶がてら家庭環境を探り、冗談を言った。居合わせた婦人には、「私はドイツ大使です」と言い、イネスを秘書だと紹介する。挙句に、こっそりしていた危ないカーパーティーや、大音量で音楽が流れるクラブまでついてくる。

明け方、ひとり先に帰ったイネスのことが気になり、ヴィンフリートは合鍵で家へと入っていく。
「お前が心配だったんだ」「パパったら異常よ!」出勤準備をするイネスを前に、入れ歯をはめて“トニ・エルドマン”に変身したヴィンフリートは、父の知らない危ないことをしていた娘に「逮捕するぞっ!」と手錠をかけ、もう片方を自分に繋ぐ。しかし、鍵がない──。仕方なく、イネスは父を連れて油田の視察へ行くことにした。

帰りの車。疲れ果て寝ているイネスを横目に、“トニ・エルドマン”は、イースターエッグの色塗りを教わるために、パーティーで出会った婦人の家に立ち寄ることを思いつく。ふたりを迎え入れてくれたお礼に唄をプレゼントしたいと、“トニ・エルドマン”はオルガンでホイットニー・ヒューストンの『GREATEST LOVE OF ALL』の伴奏を始め、イネスに歌うように勧める。

「──あなたが夢見ていた場所が 寂しい場所になってしまったら 愛があなたを力づけてくれる」
イネスは吹っ切れたように力強く歌う。いつしかその場にいた全員が、その歌声に心を奪われていた。

自宅に戻ったイネスは、チームの交流を兼ねた自分の誕生日パーティーの準備に勤しむ。部屋に花を飾り、ケータリングを並べ、ドレスを着る──。しかし、ドレスのチャックが閉まらない。来客のチャイムが鳴る。チャックが閉まらない…。ドレスも靴も脱ぎ捨てて、覚悟を決めたように全裸で扉を開ける。
「今日は裸のパーティーなの。結束力を強めるためよ」助手のアンカと、上司のゲラルトが意を決して裸で参加をしてくれた。不思議と、彼らとの会話のなかに普段気づかなかった優しさを感じるイネス。

そして、またチャイムが鳴る。目の前に立っていたのは、2mは超えるであろう毛むくじゃらの精霊「クケリ」。
「あなた誰なの?」無言の精霊は、静かに部屋を出て、公園へと歩いていく。無心で追いかけるイネス。
言葉を交わさず、笑顔でじゃれ合うふたり。「──パパ」
イネスは、これまでの張りつめた気持ちから解き放たれて、毛むくじゃらの精霊をただ、ギュッと抱きしめる──。

「ご愁傷さまです」祖母の葬儀に参列するイネスとヴィンフリート。
イネスは、転職してこれからシンガポールに行くらしい。久しぶりに再会するふたりは、祖母の遺品を見ながら思い出に浸っている。ヴィンフリートは、静かに話し出す。「義務に追われているうちに人生は終わってしまう」小さい頃に自転車を練習していたイネスの姿、バス停まで迎えに行った思い出…最近よく思い出すという。 「あとで大切さがわかる。でもその瞬間は…分からない」

イネスは、ヴィンフリートの胸ポケットに手を突っ込み、変装用の入れ歯を取り出す。
おもむろに装着すると、“トニ・エルドマン”のように出っ歯になったイネスは優しく父へ微笑んだ──。

1946年8月6日オーストリアのシュタイアーマルク生まれ。もともと家業の歯科技師になるために教育を受けていたが、グラーツ工科大学で建築を学び、その後演劇への情熱が高じ、グラーツ音楽演劇芸術大学に学んだ。学業を終えると、ザンクト・ガレン、ベルン、デュッセルドルフなどの劇場でキャリアを開始、ミヒャエル・ハネケらの演出家と仕事をする。79年、ベルリンのシャウビューネ演劇カンパニーに加わり、そこでペーター・シュタイン、クラウス・ミヒャエル・グルーバー、リュック・ボンディ、ボブ・ウィルソン、アンドレア・ブレスらの演出の下で演じた。
その一方80年代、アレックス・コルティの“Das EineGlück und Das Andere、Herrenjahre”など多くTVドラマにも出演。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『三人姉妹』(89)でスクリーンデビュー。
98年から01年まで放送されていた戦闘ヘリコプターが活躍するバトル・スカイ・アクション「ヘリコップ」シリーズでは、特別警察隊をまとめる司令官役をシリーズ全話を通し演じている他、“Gebürtig”(02)、“Jedermann”(04)、“Daniel Käfer - Die Villen der Frau Hürsch”(05)など数々の作品で主演を務めている。
03年に製作された「ヒランクル」(監督:ハンス・シュタインビッヒラー)では、主人公の女性やその家族との過去の出来事に思いを巡らす洗練された紳士役を演じている。また“Mozart in China”(08)では、実の息子キャスパー・ジモニシェックと親子共演も果たしている。
『ありがとう、トニ・エルドマン』では、ヨーロッパ映画賞、オーストリア映画賞、国際シネフィル協会賞で主演男優賞を受賞。

1978年4月30日ドイツのテューリンゲン生まれ。エルスンスト・ブッシュ演劇芸術アカデミーで演劇を専攻し、99年に“Midsommar Stories”内の短編のひとつ“Sabotage”に出演して以来、06年までは舞台女優としてイエナ、ライプツィヒ、バーゼル、ベルリン、ハノーヴァー、ミュンヘンなど数々の舞台で活躍。その卓越した演技により03年、演劇雑誌「ホイテ」の栄えある最優秀若手女優賞を受賞。同誌は10年、13年にも彼女に最優秀女優賞を与えている。また、ドイツ最古の、そして最も重要な美術院であるミュンヘン美術院に15年に入会を許されている。
本格的な映画デビューは06年に発表された「レクイエム~ミカエラの肖像」(監督:ハンス=クリスティアン・シュミット)。主役の精神と意識の不安定な女性ミカエラを演じ、第56回ベルリン国際映画祭において銀熊賞(女優賞)、ドイツ映画賞最優秀主演女優賞他多数の女優賞を受賞。
11年の“Über uns das All”(監督:ヤン・ションベルク)でも主役を務め、翌年のドイツ映画賞、ドイツ映画批評家協会賞にて主演女優賞を獲得。“Finsterworld”(13/フラウケ・フィンスターヴァルダー)では、ドイツ映画賞助演女優賞を受賞。その他の作品に“Madonnen”(07)、「裸の診察室」(10)、「ピノキオ」(13)など多くの作品に出演するドイツを代表する数少ない女優のひとり。
『ありがとう、トニ・エルドマン』では、ヨーロッパ映画賞、トロント映画批評家協会賞、バイエルン映画賞で主演女優賞を受賞。

1953年5月31日ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン生まれ。14年製作のコメディ映画“Wir sind die Neuen”でドイツ映画俳優賞コメディ部門の最優秀男優賞を受賞。映画や舞台で活躍する。

1953年5月31日ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン生まれ。14年製作のコメディ映画“Wir sind die Neuen”でドイツ映画俳優賞コメディ部門の最優秀男優賞を受賞。映画や舞台で活躍する。

1953年5月31日ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン生まれ。14年製作のコメディ映画“Wir sind die Neuen”でドイツ映画俳優賞コメディ部門の最優秀男優賞を受賞。映画や舞台で活躍する。

品番:BIXF-0255
発売日:2018/01/06
価格:4,800円(税抜)
画面:16:9 [1080p Hi-Def] ビスタサイズ (特典映像を除く)
字幕:日本語字幕
音声:ドイツ語 DTS-HD Master Audio 5.1chサラウンド
公開日:2017年06月公開
製作国:ドイツ=オーストリア
製作年:2016

【特典映像】
●メイキング
●インタビュー映像集(マーレン・アデ監督、ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー)
●予告集(オリジナル版予告、日本版予告)

商品詳細

品番:BIBF-3228
発売日:2018/01/06
価格:3,900円(税抜)
画面:16:9LBビスタサイズ (特典映像を除く)
字幕:日本語字幕
音声:ドイツ語 ドルビーデジタル 5.1chサラウンド
公開日:2017年06月公開
製作国:ドイツ=オーストリア
製作年:2016

【特典映像】
●メイキング
●インタビュー映像集(マーレン・アデ監督、ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー)
●予告集(オリジナル版予告、日本版予告)

商品詳細