クラスメイトのタチアナに片思い中だが、臆病者で話しかけることができない。クラスでははみだし者で、授業でアル中の母親についての作文を読むと、同級生から「変人!」と笑われ、先生から大目玉を食らう始末。でもそんなのお構いなしに、マイクの頭の中はタチアナの誕生日のことで一杯だ。3週間後の誕生日パーティーに向けてこっそり似顔絵を描いている。
担任が転校生を連れてやってきた。
チチャチョフという聞き慣れない名前。
「どこの出身か自己紹介を」
「面倒くせえ」
どうやらロシアのかなり遠い所から移住してきたらしい。目つきが悪く、変な髪型で二日酔い。とんでもない奴がやって来たと、転校生・チックの噂はすぐさま学校中に広まった。隣の席のマイクも、目を合わせようとしない。
タチアナの誕生日パーティーの招待状は、結局マイクとチックにだけ届かなかった。
悔しいけど似顔絵を破り捨てることもできず、マイクはひとり部屋で泣いていた。
マイクは店で酔いつぶれた母親を迎えにいく。
「明日“スパ”(※断酒の専門病院)へ行くわ」
自転車を漕ぐマイクの背中で、力なく母親がつぶやく。
母親は病院へと発ち、浮気中の父親は200ユーロを置いて、愛人のモナと2週間の出張旅行に出かけて行った。
突然、チックが青いオンボロのディーゼル車“ラーダ・ニーヴァ”に乗って家にやってきた。
「盗難車か?」
「借りただけさ あとで返す」
「捕まるぞ」
「俺は14歳だ 刑罰は15歳からさ」
恐る恐る、車内を見渡すマイク。
「ドライブに行こうぜ」
嫌がるマイクをよそに、ズケズケとマイクの家に上がり込むチック。
今夜は、2人が誘われなかったタチアナの誕生日パーティー。渡せず終いの似顔絵を見せると、チックはマイクを連れてパーティー会場へと向かう。
ネオンが光る道路を堂々と走る青いオンボロ車。
「大丈夫 運転は世界一だ」
余裕の表情を浮かべるチックの横で、不安げなマイク。
会場に着くと、人混みの先にタチアナの姿があった。
チックに背中を押され、マイクは意を決してプレゼントを渡す。中身を見て驚くタチアナ。
清々しい顔で会場を出る2人。
2人はオンボロ車で旅に出ることを決めた。目指すは、チックの祖父が住んでいる“ワラキア”(※ドイツ語で未開の地を指す)。
広大な畑の中を青いオンボロ車が走っていく。
マイクがスマホを取り出すと、チックが取り上げて車窓から投げ捨てる。
「地図もスマホもない これじゃ行けないよ」
「ひたすら南へ行けばいい」
しかし、はたして南へ走っているのか分からない…。頼りの道標もなく、あてもなく走り続けると行き止まりにぶつかった。
トウモロコシ畑に車ごと突っ込むチック。道なき道を爆走するオンボロ車。
「チック 名前を書け」
「俺の?」
「グーグル・アースで見られる」
ハンドルをきるチック。青々と茂るトウモロコシ畑に、みるみる字が書かれていく。
「マジすげえ!」
風力発電機の下で、寝袋に入ったマイクとチックは星空を見上げている。
2人は妄想する。宇宙のどこかで、地球人2人組が車を盗む映画がやっている。みんなが空想だと思っているなか、2匹の虫だけが実話だと信じていると。
「2匹は俺らを 俺らは2匹を信じる」
食料調達に向かう2人。道を尋ねた少年についていくと、少年の母親が出迎えてくれた。母親と沢山の子どもたちに囲まれて、ようやく美味しい食事にありつけた。デザートを競って、母親が出題するクイズを次々に子どもたちが答えていく。
別れ際、チックが子どもに尋ねた。
「俺もクイズを 腕時計で北を探す方法は?」
「短針を太陽に向けると12時との中間が南!」
「正解!」
すると、車に乗り込んだチックの横を、警官が通りがかる。マイクを残したまま、慌てて車を発進するチック。警官の自転車を奪い、マイクも逃走をはかる。
明け方、風力発電機の下に戻りチックを待つマイク。
「やっぱりここか!」
日暮れ時、黒く塗り替えられ、ナンバーが差し替えられた車に乗ってチックがやって来る。
燃料不足で、他の車からガソリンを盗むことを思いついた2人は、ゴミ山でホースを探し始める。
ゴミ山横の廃墟から2人を罵しる少女の姿。髪は伸び放題、顔は泥だらけでボロボロの洋服を身に着けている。
少女の名前はイザといい、腹違いの姉がプラハに住んでいるという。
2人は給油所に行ってガソリンを抜き取ろうとするが、うまくいかない。
するとイザが現れて、慣れた手つきでガソリンを盗み出す。
イザに頼まれ、髪を切るマイク。見違えるほど美しい女性がそこにいた。
「したことある?」イザがマイクの膝に手を置く。
戸惑うマイクにイザがキスしようとすると、タイミング悪くチックが買い出しから戻って来る。
高台に上り、広大な景色を見つめる3人。
チックが、ナイフで岩壁に3人の頭文字を彫る。
高台から下りると、プラハ行きのバスが止まっていた。
「30ユーロ貸して 絶対に返すわ」
イザはマイクにキスをして、勢いよくバスに乗り込んだ。
バックミラーに映る、数台のパトカーを撒くチック。
目の前にはいまにも壊れそうな橋。橋を直そうとしたチックが、足を怪我してしまう。
「マイク お前が運転しろ」
しかしマイクには自信がない。
「退屈な奴なんだ」
「俺は退屈してない」
チックは、自分がゲイであることをマイクに打ち明ける。
運転席に座るマイク。ギア操作をチックが教えながら、2人は橋を突破する。
アウトバーンを走るオンボロ車。それを追い越す、大型トラック。
チックにハッパをかけられ、路肩から追い越そうとしたその時、目の前のトラックが横転してしまう。
クラッシュした大型トラックとオンボロ車。トラックの荷台にいた大量の豚が道路に放り出される。
血だらけで座り込むマイクとチック。遠くから聞こえるパトカーのサイレン。
「逃げるよ 施設送りになる」
足を引きずりその場を去るチックに、着ていたスカジャンを渡すマイク。
「また会おう」
暗闇へと消えていくチック。
横たわるマイクに警官が質問を続ける。生年月日を答えるマイク。
「14歳から罪に問える」
驚くマイク。
マイクの弁護人が答弁している。
父親から口止めされていたが、マイクは耐え切れず立ち上がる。
「2人の思いつきです ボクも運転を」
真実を語るマイク。父親がマイクに飛びかかり殴りつける。
父親は荷物をまとめて家から出ていった。
母親は酒瓶を片手に、家具を次々とプールに投げ捨てている。
マイクと母親もプールに飛び込み、息を止めて一緒に泳ぎだす。
学校へ向かうマイクは警官に呼び止められ、パトカーに乗り込む。
チックの居場所を聞かれる。
「一体何が?」
「ラーダが盗まれた おととい盗まれて今朝大破してた」
チックからのメッセージだと受け取り、小さく微笑むマイク。
学校前、パトカーから降りるマイク。クラスメイトがマイクを見つめている。
授業中、マイクの元にタチアナからメモがまわってくる。
“夏休みはどこに?”
ガランとしたチックの席を寂しそうに見つめるマイク。
マイクがイザとチックに語りかける。
「50年後 ここで会おう 2066年7月28日」
「いいわ 会いましょう」
微笑んでイザが答えた。その横で、チックも笑っていた。